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桜色



「恭弥!すごい綺麗!」

「貴方桜見たことなかったの?」




春の日差しがぽかぽかと気持ちよくて。
眠気を誘う陽気の中、雲雀とその家庭教師は歩いていた。
満開の桜並木の下に差し掛かった時に、ディーノは思わず歓声を上げる。
降りしきる薄紅の花びらが美しかった。



「あることはあるんだけどな。今日のが1番綺麗だ。」



恭弥が隣に居るからかもな。
なんて。
結構本気で言うディーノを睨む雲雀。
頬がほんのりと赤く染まっていた。
そんな雲雀を見てディーノが愛しげに微笑んだ。



「桜ってすぐ散るだろ。だから満開の時はあんまり見たことねーんだ。」

「ふぅん。」

「綺麗だな…。」



呟くように言ったディーノをはっとして見上げると、何故か目が合った。




「どこ、見てるのさ。」

「恭弥。と桜。桜吹雪の中に立ってる恭弥、すごい綺麗だぜ。」




ふ、と微笑んで。
舞い散る花びらを雲雀の髪に飾る。
あまりにも自然な動作で、雲雀の反応は遅れた。



「ちょ、何やってるの!?」

「似合うなー。桜。」

「取って!」



言われるがままにもう1度雲雀の髪に手を伸ばしたディーノは、そのまま艶々しい黒髪をさらりと梳いた。
薄紅の花びらが数枚はらはらと落ちて行く。
そのまま体を屈めて、その髪にキスを落とす。
見上げた雲雀は柔らかい笑みを湛えたディーノと目が合い、どことなく居心地が悪くなり目を逸らした。
……怒ろうと、思ったのに。



「恭弥。」



酷く優しく名前を呼ばれて、雲雀は上を向く。
やっぱり、キスが降って来た。



「…ふ、」



唇が離れる瞬間、名残惜しそうな声が漏れ雲雀はかぁっと赤面した。




「恭弥、桜よりも赤くなってる…」

「うるさい!」

「可愛い恭弥…可愛い。」



ぎゅうっと抱き締められて。
耳元で甘く囁かれれば、体から力が抜けてしまう。
…まあ、いいか。



次にくる深い口付けのために雲雀はそっと目を閉じた。



桜吹雪の中に2つの影がゆっくりと重なる。









End





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