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「じゃあ俺は先に」


そう言って出ていく絳攸の背中をチラリと見て、「またね」と手を振った。
一緒にいた会社の男たちはイケメンが一人減り、競争率が下がったと色めき立つが女性側は残念そうに絳攸を見送る。
楸瑛が帰ろうとすれば甘えて引き留めただろうが、合コンの席でありながらお堅い絳攸に彼女たちは話し掛けにくそうにしていた。


「女性との席を途中で立つなんて…勿体ないね絳攸は」


思わせぶりな言葉を囁けば、彼女たちの興味は一瞬で楸瑛に移り、他の男たちにジロリと睨まれるがそんなことはどうでもよかった。
まだ店から2、3メートル近くにいるであろう愛しい彼を考えると頬が緩む。

あの絳攸が一人で駅まで行ける訳がない。分かっていながらも楸瑛は『お開き』になるまで、先の楽しみを考え適当に時間を過ごした。
酒を飲み、食べしゃべり、2件目3件目と店を梯子した。そしてそろそろ終電が無くなるだろうという時間にようやく楸瑛は解放された。

ホテルにでも、と積極的な女性をやんわりと断り、足の向くままに歩き出す。なぜかいつも絳攸のいる場所は分かるのだ。


「これも愛かな?」


絳攸本人がいれば違う!と怒鳴られただろうか。

(もう近くまで来た)

そんな確信を持ちながら、楸瑛は細い道を曲がった。


「こーうゆう」

「うわっ!」


睨みつけるように携帯の液晶を見る絳攸にそっと忍びより、ぽんと肩を叩けば本当に驚いたのか、手から携帯が滑り落ちて地面にぶつかった。


「楸瑛!?お前なんでここにいるんだ?!」


目を真ん丸にして驚く絳攸の髪をスルリと撫で、唇を耳元に近づける。


「君を迎えに。迷子の君を探すのは私だって言っただろ?」


床に落ちた携帯に目を落とす。


「こんな地図より私を呼べばいいのに」


携帯で出した小さな地図が絳攸に混乱しか生まなかったのは本人も自覚があったのか、悔しげに携帯を拾い上げた。


「……お前は楽しんでたじゃないか…」

「ああ、絳攸がいたからね」


なんでもないことのようにサラリと言えば、絳攸はアホか!と怒鳴ってくるが、その声にいつも程の元気はなかった。
当然だ。あのくだらない飲み会が始まったのが6時。
酒を飲め飲めと進められ、途中で席を立ったとはいえ約4時間もさ迷い続けていたのだ。
それに加えて


「時間、大丈夫なのかい?」

「え?じ、時間………ああっ……終電……」


時計を確認してがっくりとうなだれる絳攸に、楸瑛は恐らくこの日1番の笑顔を浮かべた。


「終電がなくなったのなら、私の家においで?歩いて来れる距離だよ」

「え?いいのか?」


すまん助かる、そう言った絳攸にもちろんと微笑んだ。

(君を招くために、終電までの時間を潰したのだから)



おわり





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