未来での出来事







未来での出来事



気が付いたらそこは未来でした。


…そんなわけあるか!
と思い切り怒鳴りたいところであるが、本当に本気で未来へ来たらしい。
こんなお伽草子みたいなことあっていいのか!?
俺――李絳攸は変わってしまった土地で茫然と立ち尽くした。



ここへ来て数か月が経っていた。
最初は異世界だと言われたほうがよっぽど納得できるようなこの世界。
しかし、ここは数百年前たしかに『彩雲国』と呼ばれていたらしい。


朽ち果てた王宮が『世界遺産』とやらになって残っていた。
見慣れた王宮。
美しくそびえ立っていたそれは今は補強工事でようやく立っていられる程だった。
初めて見た時は無性に泣きたくなった。
今でも、見ると涙が出るが。



「俺は…どうなるんだ?」



主上は。黎深様は。?可様は。秀麗は。
それに…楸瑛は。
もう、会えないのだろうか。
最後にあいつと交わした言葉は何だっただろう。



『だからあれは誤解なんだって言ってるだろ?』

『それを俺に信じろと言うのか!?この常春頭が!』

『真実ならともかく、あれは本当に何もなかったと言ってるだろう!』

『そういう問題…!…。…いや、俺には関係のないことだったな。』

『絳攸!』

『俺は吏部に用事があるからもう行く!』





最悪だ。
やっぱり何度思い出しても喧嘩別れだ。
意地を張って。
あの女官とは本当に何もなかったのに嫉妬して勝手に怒って…。
楸瑛と向き合おうともせずに逃げ出した。
もしかしたら今頃俺がいなくなって済々と女遊びしてるかもしれないとかネガティブ思考。
「ネガティブ=消極的,否定的」
外来語としてこの地に馴染んだ言葉の1つらしい。


俺はずっと勉強していた。
他にすることもなかったから、この時代のこと。
歴史を除いて。


親切な人がいろいろ世話をしてくれて、今はなんとか暮らしている。
アルバイトと言う賃仕事をしながら。
身元不明、戸籍もない俺だったが、あまり珍しくもないらしい。


そして友人、というのか同僚と言うのか。
ともかく同じ仕事場の人に連れられて俺はホストクラブに連れてこられた。
どういう場所かまだ知らなくて、言われるがままについて行ってしまったのだ。




「絳攸は女嫌いって言ってたからなぁ。こっちにしといたぜ。」

「はぁ…」

「だからって男好きってわけでもないんだろうが…黙っとけよ?」

「は?」

「社長が好きなんだとさ。」

「はぁ…」




こいつはいったい何を言ってるんだ?
男好き、社長が好き?

店の中は妙に派手派手しい男の店員と、羽振りのよさそうな男の客ばかりであった。
俺達のところに1人の店員とおぼしき男が近づいて来る。



「いらっしゃいませー。こちら新顔ですねー。すげー奇麗な人じゃないっすかぁー」



バカっぽい話し方がものすごく癇に障る。
吏部で、否、王宮内でこんな奴がいたら即刻叩きだしていただろう。
目の前の男は、多分まあまあ綺麗な顔立ちなんだろうが。
楸瑛、主上、静蘭などの美形を見慣れた俺にとっては何の感慨も受けなかった。
無言で一瞥する。
吏部の次官を務めていた俺の睨みは健在なようで、その男はさっと顔を青くして隣の男に視線を移した。




「おい。ここは何なんだ?」

「まさかお前初めてか?!こういう店。」

「ああ。」



当たり前だろ!!と叫びたいのを鉄壁の理性と呼ばれるそれを総動員して抑え込んだ。



「ここは男が男にもてなされるお店。女の店は行ったことあるだろ?」

「ない。」



楸瑛を思い出しながら答えるとそいつは大げさに驚いた。




「ぇえ!?ないの!?1度も?お前ほんとに男かよ」

「黙れ」

「ああ、でもそっか。絳攸くらいの顔なら女なんか選り取りみどりか。」

「…女は嫌いだ…。」

「それさぁ。何で?だからって男専門ってわけでもないんだろ?」

「………。」

「え?!もしかしてマジで?」

「そうでもない。分からん。そんなこと考える暇もなかった。」




向こうでは、黎深様のご恩に報いるべく必死に勉強して、国試に及第した後も吏部侍郎になるまでずっと努力を重ねてきた。
その後は主上付きになって、秀麗の勉強を見てやって、あいつと一緒に花を受け取って…それで。
記憶が走馬灯のように駆け巡り、ぐらりと体が揺れた。



「おい、大丈夫か!?」

「あ、悪い。少し風に当たってくる…」

「おう。」



最悪の空気だが、アルコールのにおいの充満したここよりはましだろう。
俺はふらふらと外に出て行った。











「しまった。」



煌びやかな明かりが煩わしくて、店から少し離れようと数十歩歩いただけなのに。
迷った。
どうしよう。
土地勘なんて欠片もないこの地で迷うなんて今ほどこの方向音痴を恨んだ瞬間はない。


途方に暮れていると、後ろからざくざくと足音がして誰かが近づいてきた。
そして鼓膜を響かせる懐かしい、声。




「お兄さんどうしたの?酔ってる?」


「しゅう、えい……」











End


■□■□■□

お題のまんま…
タイムスリップっ!
迷子けっこう順応性高いですね(笑)
もうどこに双花要素があるのか分からないですが
どんなコトになっても魂でひきつけあうよ!的な…

本当はちゃんと帰れる予定だったんですが。
どこを間違えた…


2008/4/7

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