記憶と言う名の想い出



昼下がりの茶州府。
珍しく穏やかな時の流れるそこに嵐の種は訪れる。





記憶という名の想い出





「燕青!!」



扉を割る勢いで燕青の私室に怒鳴り込む柴彰に燕青は驚いた目を向ける。
実に普段の彼らしくない。



「あなた…!いったい何をしたんですか!?」


「うおっ!落ち着け!彰!!何って何だよ!?」


「聞きたいのはこっちです!何で貴方個人に向けて『紫氏の紋印』での文が届くんです!?」



ばんっ!
と大きな音を立てて机に叩きつけられた封には確かに王家の印。
封蝋に押せば直接王のもとへ送られるが、王からの勅命としての封蝋も成すのだ。
それがなぜ燕青のもとに届いたのか。
流石の燕青も訳がわからず無駄に高そうな封を見つめていた。




「…開けないんですか?」


「いや、開けるけど。一応宛先確認しとこっかなー…なんて。」




自分と王は確かに面識がある。
だが心当たりのない燕青はとりあえず「間違え」の可能性を考えた。
呆気なくその可能性も消えうせてしまったが。




「やっぱ俺宛かぁー。」




ピリピリ、と封を破る音が静かな室内に響く。
さっそく中身を開き目を通す。




「ん?どれどれ。浪燕青殿…」




読み進めていく燕青の顔がだんだんと曇っていく。
傍にいた彰が怪訝に思うほど、燕青の表情が固くなる。



「えんせ…」


「悪ぃ!彰!俺しばらく戻らないかもしんねーけど大丈夫だよな!?」


「!どうしたんです?!その手紙には何と…」


「悪い!」




それだけ言うと、竜巻の如く飛び出て行った燕青をなす術もなく彰は見送るしかなかった。

彰がその理由を知るのは、しばらくして届いた秀麗からの文を見てだった。








邸を飛び出した燕青は、苦々しげな顔つきで手の中の文を握り締めた。



【浪燕青殿……静蘭が行方不明になったらしい。
話によれば最後に見かけられた際に普段の静蘭からは考えられぬ程前後不覚な様子だったと聞く。
静蘭に何があったか分からぬが、余は心配で・・・・・・】



王として、重役でもない一個人のために捜索の命を出す訳にはいかないこと。
それでも心配でたまらないこと。
劉輝のどうしようもない胸の内が切々と綴られ、最後にはこれを読んだら燕青が探しに出ることを見越して文を出したことへの謝罪があった。
しばらく待てば秀麗からも文が届くだろうが、一刻も早く知らせたかったのだろう。




そして燕青は静蘭を探しに出る。
劉輝の期待通り。否、燕青の義務とも言えるのではないだろうか。




「静蘭…」




同じ会えない状況でも、居場所がわかっているのといないのでは全く違う。
もどかしく、焦る気持ちを抑えつけて燕青は茶州を出て行った。









続く

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