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「それでそのまま普通に帰るって、そりゃーねーだろー」
「黙れ。あんな無自覚で天然なやつに1から10まで説明してられるか」
「ま、分かんなくもねえけど。だって触れなかったんだろ?キスのこと」
「なにも感じなかった、って訳じゃなさそうだったけどな」
そう言ってにやりと笑った高杉を横目で見て、悪そうな顔と呟いた銀時はおもむろに立ち上がった。
「ま、俺には関係ねぇし〜?俺ちょっと行くところあるから」
「……まさかあの件、か?」
「あれ?バレてた?」
互いに顔を見合わせる。
桂の話題の時とは打って変わり真剣な表情をしている。
「塾の生徒はたいてい気づいてることだろ」
「ヅラもか?」
冗談めかして問うた銀時に、真剣に頷いた高杉。
銀時はおや?という顔をした後、そうか、と呟くとふと思案顔になった。
「とりあえず、俺は一回街へ行ってみるぜー。自分の目で見たいしな」
今日の用事というのもそれだったらしく、高杉は1つ頷いた。
「その間に、ヅラとやっちまえるとこまでやっちまえよ」
「そんなこと言ってねぇだ…―――」
「もしかしたら、そんな暇くれないかもしんないよ?出来る時にやっとけ」
珍しく強い語調の銀時に高杉は黙り込む。
本当は状況なんて半分しか分かってなくて、残りの半分を埋めるために銀時は自分の目で見てくると言っているのだ。
その結果が悪ければ、自分たちには本当に明日に確証を持てない。
したいこと、それをしておけと言う進言は決して間違いではなかった。
「まぁ、分かんねぇぜ?もしかしたら全部デマかもしれなしな」
「は、本気で言ってんのか?」
「半分は願望だけどな。……なぁ、ヅラだけどよー」
「ああ?」
「本当に気づいてんなら………いや、何でもない」
銀時の黙した言葉に察しがついた高杉は、その言葉を求めることはしなかった。
銀時が行ったら、もう一度桂に会おう。
今度は、戯れのキスなんてせずに、くだらない嫉妬に話の腰を折ったりせずに。
要領の悪い桂の話をちゃんと聞こう。
「面倒だけど仕方ねぇな」
何せ初めて大事にしたい人なのだから、持てうる限りで大切にしてやろう。
心を決めたような高杉の表情に、銀時は安心したように笑い、じゃあ行くわと戸口に手をかけた。
今も昔も変わらねえ。ほんっと世話の焼ける奴らだぜ…
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