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おとぎの国の静蘭
昔、ある国に瞑祥というとても頭の切れる王様がいました。
実際彼はそこそこ頭はよかったのですが、彼よりも優秀で頭脳派の人など掃いて捨てるほどいたのです。
しかし、そこそこしか頭の良くない彼はそんなことには気付きませんでした。
瞑祥は、美しい少年を愛する性癖を持っていました。
王様という立場を利用して、今日も国の美少年を集めて吟味しています。
「俺の理想に敵う奴などそういない」
瞑祥は集められた少年を前にそう思いました。
集められた少年たちは、残虐な王様に何をされるかという恐怖からとても従順だったのです。
典型的サディストの瞑祥は、それがつまらなくて仕方ありません。
彼は抵抗する体を押さえつけて、無理矢理組み敷くのが何よりも好きだったのですから。
そんな時、とある少年が傷だらけの少年を連れてやってきました。
「これを君にあげるよ、ただし、殺しちゃダメだよ?」
瞑祥に少年を差し出した少年はそう言って、去って行きました。
少年が帰った後、瞑祥は連れて来られた少年をじっくりと観察し始めました。
その少年は、この国のどこを探しても見つからないような高貴で美しい顔だちをしていて、瞑祥は一目で彼を気に入りました。
そうして、瞑祥はその少年の世話を部下に任せ、彼の回復を待ちました。
*・*・*
連れてこられた少年の名は、静蘭といいました。
彼は王国の皇子で、王位争いに負けて追放されていたのです
しかし、皇子の中でも最も優秀で剣の腕もあった静蘭は他の皇子やその親に殺し屋差し向けられ、ようやく全滅させたところで意識を失ったのでした。
静蘭は体中に走る痛みに、ふいに意識を覚醒させました。
そして、痛む頭に手を添えようとして、その手にはまった鉄の枷に気が付きました。
「…ちっ」
誰かに捕らわれたことを一瞬で察した彼は、小さく舌打ちをして暴れるのをやめました。
どうせ脱出できないなら、体力は温存しておいた方がいいからです。
静蘭はゆっくりと室内を見渡し、そこが初めて見る場所だということを確認しました。
部屋の広さや調度品の高級さから、そこそこ金持ちだとうことは見てとれましたが、それ以上は分かりません
静蘭は部屋の主が来るのを待つことにしました。
しばらくして足音が聞こえてきました。
部屋の主が帰って来たのでしょうか
静蘭は黙って、部屋の扉を見つめました。
がちゃりと開いたドアから顔を出したのは少年でした。
黒髪に黒い目をした同年代の男の子がひょこっと顔を出していたのです。
その身なりや仕草から、この部屋の主ではないと静蘭はすぐに分かりました。
ここから抜け出すチャンスかもしれません。
「あっれー?っかしーなー。部屋間違えたか?」
一方静蘭の姿を見つけた少年はのんきにそう言いながらずかずかと中へ入ってきます。
静蘭はその姿を気丈に睨みつけました。
本当は、助けてくれる可能性があるなら媚びた方がいいのかもしれませんが、静蘭の高い矜持がそれを許しません。
しかし少年は気にした風もなく、静蘭の横たわるベッドの近くまでくると目を瞬かせました
「えーっと…趣味?」
「誰が趣味で鎖につながれるか!」
能天気な少年の言葉に静蘭は噛みつくように言い返します。
すると少年はなぜかニヤリと笑いました。
なんだと身構える静蘭の前で片手を振り上げた燕青は、その手にもった小刀で、静蘭の両腕の鎖を断ち切ってしまいました。
「これで自由だぞ、どっか行くなら行け」
「……行くところなどない」
「じゃあ俺と来る?」
簡単に言ってくれる。
静蘭はぼやきながらも、なぜかほっとしている自分を感じていました。
続く
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