旅路



ランプの精A





「ふん、私があのような狭苦しいところにいる間に人間どもはずいぶんと知恵をつけたようだな」



砂漠の中心に建てられたような小さな町についた途端のそのセリフに、燕青は思わず何歳だよと聞きかけ、寸でのところので口を閉ざす。
女性に年を尋ねるのは禁忌だと母が言っていた。
静蘭は女性ではないが、そこらの女性より綺麗だしなんとなくそう思う。




「どう、変わったんだ?」

「少なくとも居住地はテントだったな」

「へえ…」




テント生活をしていた時代とはいつだったか…。
燕青が一瞬遠い眼になる。




「あれは市か?」

「そうみたいだな。旅はまだまだ長いし食糧とかも揃えたいし、今日はこの町で休もうぜ」

「分かった」




素直に従う静蘭に疲れているのかと心配したが、魔神である彼には日中歩き続けることなど特に苦痛ではないらしい。
小さいなりに賑わう市場を1つ1つ見て行く。
綺麗な宝石や布などもあったが、やはり生活必需品や食べ物の店が多かった。




「ご、…燕青。」





ずいぶん前に御主人様と呼ぶのはやめてくれと言ったのを律儀に守り続ける静蘭に笑みを向けながら呼び声にこたえる。





「買う資金はあるのか?」





ないだろう。と続けて問われる。
此処まで共に長旅を続けてきた仲だ、互いの荷物(といっても静蘭の荷物と言えるものはランプのみだったが)の中身など知り尽くしている。
砂漠を旅するのに硬貨は重いだけで邪魔だと、燕青が無一文なことも。





「ねえなら働けばいいんだって」

「なぜ私に命令しない?」

「自力でどうにかなることを人に頼るなんて馬鹿らしいだろ」

「………そうだな」





当然のように言い渡され、静蘭は言葉に詰まる。
自分の利用価値など願いを叶えることだけだと思い込んでいるのだから、それを断り続ける燕青のことは理解しがたいだろう。
実際は、一目見た瞬間からあまりの綺麗さに一目惚れ、一緒に旅を続ける中で知っていった内面にも惹かれている燕青が静蘭の価値をそれだけに留めているはずもないのだが、静蘭にそれを知るよしはなかった。


綺麗、だよな。


改めて静蘭を眺めて思う。
少しばかり砂っぽくなっている姿でも薄い光を纏っているかのように輝いて見える。
先ほどからすれ違う人が振り返るのを見ていても、その美しさは本物だった。





「燕青?どうした?」




邪な想いで静蘭を見ているなんて思いもしない静蘭は無防備な顔で燕青を覗き込む。
友人、(あるいは従者)としてなら普通の距離も、片思い中の相手となると近すぎる。
反射的に1歩後ずさり、慌てて取り繕った笑顔でなんでもないと手を振った。





「変な奴」




馬鹿にしたにしてはあまりに優しい微笑みに燕青の鼓動が早まる。
ヤバいって、これ。
長旅の間に否応なくさせられていた禁欲生活にすっかり慣れたつもりだったが
これはまずい。
本能的な衝動を理性をかき集めて抑え込む。





「す、住み込みで働ける所探そうぜっ!」

「…そうだな」





焦りすぎて、えらく力の入った物言いになってしまった燕青を不思議そうに一瞥した静蘭だったが、結局なにも言わずに頷く。















結局宿屋での住み込みがあったのでそこに収まった。





「随分あっさり決まったな」

「まあ、客商売だからな」

「?」





店主が、静蘭の顔を見た瞬間に顔色を変えて機嫌よく接してきた。
綺麗な男というのは場合によっては女性よりも人を集めるものだからだろう。
店主の思惑が分かっている上で燕青が尋ねた





「静蘭、別にお前まで働く必要はないんだぜ?ランプにいれば問題ねえし」

「別にいい、2人の方が早く稼げるだろう」

「まあそうだけど…」

「働いて欲しいのか欲しくないのかはっきりしろ!」

「…働いて、欲しいです」





ならば文句ないだろうと言う静蘭が無性に愛おしい。





「言っておくが私は働いたことなどないぞ。ただ魔法が使えるだけだ」

「それ、ただって言わないんじゃ…」

「ご主人様の命令がなくても使えるのはお前に仕えて初めて知った」

「うん?」

「だから思い通り使えるかも分からん」





ああ、そうか。ようやく静蘭の言いたいことが分かった燕青は大丈夫、と静蘭を抱きしめた。
足手まといになるかもしれない。
そのことを心配しながらも素直に言えない静蘭が可愛らしくて仕方がない。
これで数百年の年月を生きてるって、嘘だろ。





「ちょ、何がだ!離せ馬鹿!」





大丈夫だって。と囁く燕青に耳を真っ赤にして怒る静蘭。
衝動のままかき抱いた体は燕青の腕にすっぽりとおさまり、髪や体から立ち上る香が燕青を興奮させた。
じたばたと暴れる力は思いのほか強いが、燕青ならば軽く抑え込める程度だ。
ここまでしてしまったのだからもういいかと、眼前にあった静蘭の頬に軽く口付ける。


ちゅ


と、軽い音を立てた自分の頬に手を当て、静蘭が固まった。





「おまっ、な、何…?」

「なぁ静蘭」

「っ!」





意識して耳元で囁くと静蘭の体がびくん、と跳ねた。






「一生静蘭を俺のモノにするとか、そーいう願いはなし?」

「…、な、なしだ。規約に反する」





真っ赤になりながら必死に目を合わせないようにする静蘭が、それでも気丈な声で応える。
そっか、と少し残念そうに呟いた後燕青は今度は静蘭の唇に自らのそれを押し当てた。





「じゃ、正当方で俺のモノになってもらうから、覚悟しとけよ?」

「い、嫌だ!」





思ったとおり手ごわそうだと少し笑う。
時間はまだ、ある。
燕青が願いを3つ言わない限りは。






END





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