「燕青様」

「だーから、様とか付けなくていいって。燕青でいい。」





H




新しい主として、燕青のことを敬称を付けて呼ぶ静蘭。
燕青はくすぐったそうに身をよじった。
実際かなりこそばがゆい。



「ですが…」

「俺らは別に雇い主と雇われ人の関係じゃなくて同居人なんだからいいんだよそれで。」

「分かりました…。燕青…さん」

「…ま、いっかそれで。」



にかっと笑って静蘭の髪の毛を乱暴にかき回す。
結われていない柔らかな髪が踊る。



「俺今夜の夕食取って来るからちょっと待ってろな?」

「私も行きます。」

「あー。いや、俺だけでいいや。お前のこと知ってるやつ結構いるし、記憶が戻るまでは内々ですませたいんだ。」




申し訳なさそうに言う燕青に、静蘭はふるふると首を振る。




「いえ。私こそごめんなさい。」



気にすんな、ともう1度髪をかき交ぜた。

















「美味しい?」

「美味しいです。」




まるで結婚したての夫婦のような会話。
…俺が嫁か?
燕青は自分の考えに少し寒気がする。
静蘭を嫁にすることはあっても婿入りはなー




「…せ……ん?…えん…い…ん?燕青さん?!」

「んぁ、うおわ!?」




すっかり自分の世界に入り込んでいた燕青は、あまりに近くにあった静蘭の顔に驚く。
燕青の大声に静蘭も驚いたようだ。



綺麗だな。



ふ、と燕青の視線が止まる。
見つめられた静蘭も訳が分からないと言った体で見つめ返す。
その行為が燕青の熱をさらに上げた。




「静蘭…。」

「はい。」

「お前さ………いや、なんでもねー。ぼーっとしてて悪かったな!全部食っちまおうぜ。」




何かを言いかけ、飲み込むようにその言葉を飲み込んだ。
燕青は妙に怪しい雰囲気になりかけた空気を霧散させるように無駄に明るい声を出す。
静蘭はしばらく止まった後、また食事に戻った。










続く


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