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「貴方は、誰ですか?私は…」
「話は落ち着いてからな。まずは体を洗ってゆっくり眠れ。」
何よりも自分の過去が知りたかったが、優しい声に従った。
G
湯浴みをし、湯気を立てて部屋に入って来た静蘭は壮絶に色っぽかった。
本人が自覚してない分、いつもより無防備で正直なところ、こんな状況でなければ燕青は絶対欲情してただろう。
否、ただ理性が性欲に勝っただけのこと。
「さて、何から話すか…」
とりあえず間違いを起こさないよう机を挟み、お茶を用意した。
大人しく言われるがままに従う静蘭に、燕青はどうも調子が狂う。
「お前さ、何か覚えてるコトあるか?」
「……ないです。」
しばらく考えた後、首を横に振った静蘭に、燕青が眉を寄せる。
これは、どうすれば。
明日になったら医者に見せようと考えながら次の質問に移る。
「俺としてはあんま聞きたくないんだけど、お前…あの邸で何してた?」
「使用人として置いて頂いてました。」
「ふぅん。あれも使用人の仕事なのか?」
質問を重ねた燕青の声に、はっきりと棘が混じったのを敏感に感じ取った静蘭が、ビクリと体を揺らす。
「っ悪い!今のは忘れてくれ。そろそろお前の聞きたいこと聞いて?俺お前の過去すっげ知ってるから。」
慌てて謝った燕青が話題を変えるように、静蘭に質問を促した。
「私は一体どういう者だったのでしょうか?」
「お前の名前は『?静蘭』」
「せいらん…」
「そ。んでトアルお邸の家人として住んでた。ちなみに立派な武官だ。」
「ぶ、かん?私が?」
「そう。それから俺―浪燕青な―とは昔馴染み。つか親友」
本当は恋人でもあるのだけど、それは伏せた方がいい気がして、燕青はそこで止まる。
一気に素性を明かされた静蘭が混乱した表情を浮かべ、燕青を見つめた。
「……何も覚えていない……」
茫然と呟く静蘭。
燕青は机上で握りこまれた静蘭の拳に手を重ねた。
「俺の一存だけどよ、今のお前を連れ帰って嬢ちゃんやみんなに心配かけたくねーから。しばらく俺と住んでもらっていいか?」
静蘭がぱっと顔を上げる。
「いいのですか?」
「おう!無理に思い出そうとしなくていいから、」
変に途切れた言葉に静蘭が疑問符を浮かべたが、燕青は笑顔でごまかした。
そうして山奥の小さな小屋のような家。
記憶を失った恋人との不思議な2人暮らしが始まった。
続く
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