準備は完璧。
これで連れ戻せる。





E




門前払いをされて2日後、逸る気持ちを抑え、根回しを進めた結果、ようやく静蘭の居る邸の見取り図と静蘭の1日の動きが掴めた。




「静蘭が寝てるのは奥の部屋か、好都合だよな。」




今までの情報から、静蘭が記憶を失っているらしいと気付いた燕青は、ほとんど誘拐という形で静蘭を連れ戻す覚悟でいた。
決行は今夜。
劉輝たちに知らせて応援を呼ぶのもいいが、待ってはいられなかった。



「それに…」




言いかけた言葉を止め、暗い考えを振り払うように、燕青がいささか大げさに息をつく。
今考えても仕方のないことだ。









燕青の身体能力をもってすれば、これくらいの邸忍び込むのは造作もないことだ。
危なげない足取りで塀を乗り越え、少々派手目な庭に降り立つ。
闇夜に忍んで、奥の部屋に向けてさくさくと進む。
身長にならなければならないのは、部屋についてからだ。













「いない?」




窓枠に手をかけ、侵入しようとしたが人の気配のなさに動きを止めた。
念のため窓を開いて中を見たが、寝ている静蘭はおろか、人が使っていた形跡すらなかった。
まさか情報が間違っていたのだろうか、と思い、仕方なく自分の足で探しまわることにする。



寝静まった邸の中を足音を立てずに歩く。



「…」

「……」



「ん?」




こんな真夜中にぼそぼそと声が聞こえる。
声と言うかこれは




「お取り込み中…?……まさか…!」




甲高い声があがった瞬間、それが静蘭の声に聞こえ、まさかと思いつつ燕青の歩調が速くなる。
声のする部屋の前まで来たとき、不安が現実のものとなる。




「静蘭…!!?」



すぐにでも踏み込みたい気持ちを抑え、燕青はぎりっと奥場を噛み締めた。
予期していた最悪の事態だ。
この様子だと毎晩この行為は続けられていたのだろう。
燕青は使われた形跡のなかった部屋を思い出し、今静蘭に覆いかぶさっているであろう男に本気で殺気を覚える。
いっそのことの本当に踏み込んでいって殺してやろうか。
などと、彼らしくない考えがよぎる。





しばらくして行為は終わった。
それまでの間永遠部屋の外で静蘭の甘い声を聞かされていた燕青はある意味拷問を受けている気分だった。










恐らく乱れた静蘭をそのまま残して出てきたのだろう、この邸の主が姿を見せる。
目の前にいた燕青に声もなく固まっている。




「っ!だ、誰だきさ…っぐふ…」



声を取り戻した男が大声を上げる前に燕青の強烈な棍が男のみぞおちに叩き込まれた。
くぐもった声を上げて、男の体が崩れ落ちる。



「やっぱ半殺しくらいにしとかねーと気がすまねぇわ。」



物騒な笑みを浮かべ、問答無用で気絶した男を踏んで部屋に入る。




「…っ!?」




立ち込める青臭い匂いに顔をしかめる。
一体どれほどの時間弄ばれたのか。
部屋の真ん中に崩れ落ちるようにして倒れる静蘭の姿に燕青は駆け寄った。



「静蘭!」



ぴくりと身じろぎした後、静蘭がゆっくりと顔をあげた。






続く


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