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燕青が茶州を飛び出てから早い物で半月が過ぎていた。
当然その期間の数刻でさえも彼は無為な時間など過ごしてはいない。
「ここ、かぁー」
そしてようやく、静蘭らしき人が住み込みで働いているという件の邸へ辿りついたのだった。
C
「貴様何者だ!?」
ふらりと門に近づくと、門番の男が不信感を露に剣を抜きかける動作をする。
今の汚らしい燕青の格好ではそれも仕方がないかもしれないが。
「あー。俺浪燕青って言うんだけどさ。ここに静蘭って男いるだろ?会いたいんだけど」
「そんな名の者この邸にはおらん!」
「っかしーなー。絶対ここだと思うんだけど…」
まさか探し人が名前も全て忘れているなんて考えなかった燕青が首をひねる。
「じゃあさ。すんげー綺麗で、こんくらいの長さの髪の毛して、20代前半にしか見えない人いる?」
今度は門番が首をひねった。
そんな男いただろうかと。
しばらく考え込んだ後、1人の人物に行き着いてああ!と声を上げる。
「最近入った人か。素性が分からないとかで外出も許可されてないとか。」
「素性が分からない?」
「名前も何も忘れていると聞いた。それにお前、あいつに会おうとしても無駄だと思うぞ。」
「なんで?」
「ここの主が大層気に入っているからだ。」
聞き流しがたいセリフに燕青の纏う気が変わる。
それに気づいた門番がどうしたのかと問う前に燕青は踵を返した。
早口で言ったお礼の声の中に、先ほどまであった余裕は感じられなかった。
続く
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