蛇神









「あ、いや、だ……止めろ楸瑛…!」



衣を剥がれ、露わになった絳攸の肢体。
その腹を、首を、腕を。ゆっくりと這い進むのは九匹もの蛇たちだった。
そしてその主は、悠然と腰を落ち着けて、自分の眷族たちとまぐわう絳攸を見下ろし、目を細めた。



「綺麗だよ、絳攸。まるで蛇神の一族のようだね」

「どこ。っんぐ…!」



開いた口に一匹の蛇がもぐりこむ。
器官を塞がれ、苦しげにもがく絳攸の首元へ二匹目の蛇が緩く巻きついた。



「っンンーッ!」



締められ、呼吸を奪われる恐怖からか、絳攸の瞳に涙が浮かび、やがて落ちた。
楸瑛はゆったりと立ちあがると、絳攸の頬に手を添えた。



「苦しい?」

「んぐッ…!げほっ、げほ、!」



喉を塞ぐ蛇に手をかけ一気に引き抜くと、突然入ってきた空気に咽る絳攸の顔に顔を近づけ、頬を伝う涙を舐め上げる。
目じりに残る滴を、唇でぬぐい、最後に唇に行きつく。重なり合ったそれを深めるように、舌を伸ばした――。



「――っ!」



ガリッと肉を切る音。そっと離れた楸瑛の唇からは血が滴り、息を荒げる絳攸の歯には少しだけ血がついていた。



「やってくれるね、絳攸」



もう逃がしてあげられないよ。そう言って唇を舐め、微笑んだ楸瑛の目のまわりには黒々とした蛇の痣が浮かぶ。

恐怖か期待か、よく分からない感情に呑まれて、絳攸の体がぶるりとひとつ震えた。










楸瑛の眷族たちが、絳攸の体を這いまわる。
それは先ほどとは違い、一匹一匹が意思を持ち、絳攸を攻め立てていた。



「あっ、あぁ…あっ!」



胸の飾りにチロチロと舌をはわし、時折ザラザラとした鱗をこすりつけ、ひたすらに胸を攻める一匹。

すっかり立ちあがった絳攸の分身。その先端からとろとろと溢れる先走りを舐めとるように、一匹の蛇が絳攸のものに巻きついた。



「んんんーっ!」



蛇に己の大事なところを支配され、絳攸の瞳に恐怖がよぎる。
嫌だ、嫌だと首を振ると、その頭を楸瑛の手が押さえつけた。



「駄目だよ。ちゃんとこっちに集中して、舌で舐めて、吸い上げるんだよ?」



口に含まされた楸瑛のものが、喉の奥に侵入する。息がつまり、唾液がこぼれた。
蕩けるように優しい声で、慈しむように絳攸の髪を撫でる楸瑛。そんな態度と、彼の行動が釣り合わない。
それとも彼には、これが愛する行為なのだろうか。



「愛してるよ、絳攸」

「っ…!?」



甘い言葉と、下半身に感じる不穏な気配。
ぬるりとした体液をまとった蛇が、絳攸の後孔の入り口をこじ開けるようにぐりぐりと頭をこすりつけてくる。



(それだけは…っ!)



口が塞がっていなければ叫んだだろう。手足が自由ならば暴れただろう。
しかし、自由を奪われた絳攸は胸の内で必死に懇願する。だが無情にも、蛇はぬるりと絳攸の内部へ侵入してきた。
それと同時に、楸瑛のものが口から出て、絳攸の口が自由になる。



「ぃ、いや……ッ止め、……あっ!ぁあああ!」



狭い中を押し広げるように、左右に体を揺らしながらゆっくりとしたスピードで蛇が絳攸を犯す。
先ほど目で口を犯していた楸瑛のものよりは細いが、決して細いとは言い難い蛇の長い胴が何の躊躇いも見せず、絳攸の中を進んでゆく。
最後まで入る気なのでは、という不安と恐怖が絳攸を襲う。縋るように楸瑛を見上げると、彼は楽しそうに笑っていた。



「簡単に飲み込んだね、君のここ…」

「ひぐっ、や、嫌だ…抜いてくれ…!」

「抜いて欲しい?」



その声が妙に楽しげな響きを含んでいたことに気付かないまま、絳攸は必至に首を振った。
楸瑛の口からふっと息が漏れ、それが笑ったのだと気付いたのは内部の蛇がズルリと引っ張り出された時だった。



「ひっぃ…!あ、ああい、痛い…!」

「君が抜けって言ったんだよ?」

「いや、嫌だ!抜くな…ッあ、あぁあん!」



体中を覆われた蛇の鱗。
引っ張ることでそれらを逆なで、絳攸の肉が鋭い鱗で擦られる。
痛みに涙を流す絳攸の言葉に従って、楸瑛は再び蛇を中へ押し込んだ。



「やっぱり欲しかったんだろ?」



ふふ、と楽しそうに笑みを零しぬるりとまた蛇が体内を犯す。
ビクビクと絳攸の体が脈打った。



「蛇の体は太いところもないし…奥まで可愛がってあげるよ」



絳攸の目じりに浮かんだ涙を舐めとりながら楸瑛が妖艶に微笑んだ。
絳攸がどれほど嫌がっても、懇願しても、この男は微笑みひとつですべて行ってしまうだろう。



「君を愛しているよ」



そんな呪いを囁きながら―――。










浅い呼吸を繰り返し、絳攸の胸が上下する。
さんざん蛇で犯され続けた体は疲弊しきり、お腹や足は自らが吐き出したもので白く汚れていた。



「絳攸…」

「……」



蛇たちをけしかけていた時とは打って変わり、楸瑛が情けない声を出した。
ちらりと横目でその表情を見て、何か言ってやろうかとも思ったが今は指一本動かすことすら億劫だった。
声を出すなんてとんでもない。
黙っていると絳攸の横たわる寝台がギシリときしんで、楸瑛が腰かけたのだとわかる。



「君は、なぜ逃げないんだい?」



声が出せないんだと気付けバカ。



「私は、君に酷いことしかしていない…」



本当に別人のようにしょぼくれた楸瑛。絳攸は緩慢な動きで楸瑛の衣の裾を引っ張った。
ハッとして振り返った楸瑛を引き寄せる。
とっさのことにバランスを崩した楸瑛が驚いた顔のまま上へ降ってきた。まぬけだ。



「絳攸…っ、何を…」

「俺が、傷ついてないのに。お前が傷ついて、どうする!」



いつもの怒声の十分の一も声は出なかったが、絳攸は声を絞り出す。



「俺はべつに、後悔もしていないし、恨んでもない…!」

「こうゆ…」

「何度もいわせるな阿呆が!」



そこまで言い切って限界だった。ケホケホと咽て先が続かない。
楸瑛があわてて水差しを差し出してきて、ようやく絳攸は喉を潤したが、それでも声を出すのは辛い。

いちから説明するのもめんどくさくて、それにきっと今説明したって楸瑛は理解しない。
絳攸は今言えることは言ったとばかりに目を瞑った。
しばらくして楸瑛がそっと呼びかけてくる、が無視した。


人里から隔離されて住まう蛇神の一族。
疎まれ、蔑まれてきた歴史をもつ彼らは保身のために人との接触を図らない。
そんな一族の彼が人に恋した。
愛し方が分からくても仕方ない。最初は、もっと酷かった。
微睡みながら絳攸は過去の参事を思い出す。
それでも、楸瑛を突き放さない理由を、恐らく彼だけが気付いていないのだ―――。













終わり



Zektbach叙事詩の外伝『蛇神』からの妄想でした
全然ストーリーとはかぶってないんですが(笑)
まあ、あれです。『蛇神』聴いたら蛇攻めが書きたくなった感じです。

蛇年ですし…本年もよろしくお願いします。









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