子どもが出来ました








パラパラと本の頁をめくっていた秀麗が、あらと楽しそうな声を上げたので、静蘭はどうかしたのかとその頁を横から覗きこんだ。



「えいぷりーるふーる?」

「東の島国には面白い文化があるのねー」

「嘘をついてもいい日、ですか…」



興味深そうにつぶやいた静蘭に、秀麗はいたずらっ子のような表情で笑いかけた。



「さては静蘭、誰かに嘘つく気ね」

「面白い文化なので広めてみようかと思いまして」

「じゃあ私はお父様にでも言おうかしら…」



そう言って立ち上がった秀麗は書庫へ。
それを見送った静蘭は劉輝の元へと向かった。




****




(やはり簡単に騙されてなおかつ可愛いのは劉輝しかいないな)

燕青にしようか迷ったが、反応の面白さとしては劉輝の方が期待できる。
驚く劉輝の顔を想像して静蘭は小さく笑いを零した。

そうこうしているうちに執務室の前まで来てしまう。
こほんと軽く咳払いして緩んだ頬を引き締め、静蘭は軽快に扉を叩いた。



「入ってよいぞー」

「失礼します」

「あ、兄う…静蘭!」



静蘭の姿を見た途端顔を輝かせ、椅子から立ち上がる劉輝。
合うたびに『兄上』と呼びかけるのはわざとなのか、ただの馬鹿なのか。恐らく後者だろう。
そんなところも可愛いなあ、などと相当兄馬鹿なことを考えながら、静蘭は真剣な表情を作った。



「実は主上にお話がありまして…」

「うむ、何か大変そうだな。余でよければ相談に乗るぞ」

「隠していたんですが、私妊娠しました」



嘘も大嘘。まったくのでまかせである。
そもそも男の静蘭が妊娠などするはずもない。
中途半端に本当みたいな嘘では劉輝が困るだろうと、あえてこんな嘘を選んだと言うのに劉輝はぽかんと口を開けたアホヅラで固まっている。



「あ、あに、あにうえ…え?子供が…?え…?ええ?!」



完全に混乱している劉輝。
静蘭はぐっと笑いをこらえ、少し悩んだような顔を作る。



「ええ、まだ一月ほどなんですが…」

「ひ、ひとつき!?あ、相手は誰なのだ!?」



何故か完全に信じている劉輝に笑いを通り越し、心配になってきた静蘭だが最後のひと押しとばかりにとある名前を口にした。



「主上もお会いしたでしょう?燕青ですよ」

「あ、あの男か!!」

「ええ」



完全に信じている劉輝。
彩雲国の未来が少々心配だ。
しかも劉輝は大切な兄上に何をする!とばかりに怒っている。



「落ちついてください主上、合意の上ですから」



これは嘘ではない。



「……はい…兄上がそう言うなら…」

「だ、れ、が、兄上です?」

「ひっ、せ、静蘭がそう言うなら!」




驚いたり、青くなったり、赤くなったりと忙しい。
静蘭は素直な劉輝に恋愛ではない愛おしさを覚える。
静蘭の子供なら可愛いんだろうなどと言いだした劉輝に、そろそろ本当のことを言わないとマズイと静蘭は劉輝の肩をぽんと叩いた。



「主上」

「?」

「私の性別を言ってみてください」

「もちろん男だ!」



そうですね、とにっこり笑う。
なんだが3歳児を相手にしているような気分だ。



「では主上に問題です、お腹に子供を宿すのは女性と男性どちらですか?」

「それは女性に決まってるのだ!…あれ?」



言いながら気付く劉輝。
遅い。鈍すぎる。



「主上、素直さは貴方の美点ですが、ここまであっさり騙されるとこの先やってけませんよ」

「だ、だって静蘭が余に嘘をつくなんて思わなかったのだ…」



しょぼんと項垂れる劉輝を静蘭はぽんぽんと慰める。



「すみません主上。東の島国では今日は『えいぷりーるふーる』と言って嘘をついても良い日と聞いて」

「えいぷ…?そんなものがあるのか?」

「はい。お嬢様が読んでいた本に書いてあったんです」

「東の島国では変なことをするのだな…嘘をついて何が楽しいのだ?」



顔をしかめる劉輝に、その楽しさを身をもって実感した静蘭はにこっと微笑んだ。



「相手の反応がとても面白かったですよ」

「…いじわるだ…」

「すみません。今お嬢様のお饅頭とお茶を用意するので機嫌直してください」

「…今日半日静蘭が一緒に執務室にいてくれたら直す」




どこまでもお兄ちゃん子な劉輝が可愛くて、静蘭は相好を崩しながら喜んで、と受け答えた。




子どもが出来ました
なんで信じちゃったんですか?







END?


エイプリールフールネタです。
燕青にするか劉輝にするか悩んだんですが
劉輝の方が騙されやすそうで可愛かったので劉輝にしました。
アホすぎる設定ですみません。本当はもっと賢いハズ!





〜おまけ〜


「ところでなんで燕青なのだ?」

「事実、私が女だったらあいつの子供の1人や2人出来てますから」

「え…?」


「え、ご存じなかったんですか?」

「し、知らぬぞ!はっ、さては静蘭それもえいぷりーるふーるなのだな!」

「いえ、本当ですけど…」

「……そう、だったんですか…」



知らなくていいことまで知ってしまった。





今度こそEND










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