やきもち
浪燕青という男は、明朗とした性格におだやかな気性、懐の深さは随一だし腕っ節は彩雲国でも1,2を争うほどだ。
その上無精ひげをそれば美形だなんて、ここまでいい男も他に居ないのではと楸瑛は常々思っていた。
彼自身、彩雲国一の遊び人と呼ばれるほどには女性と華やかなうわさが絶えない身ではあるが。
そして、風流な女官というのは案外ああいう少し無骨な男に本気になりやすい。
楸瑛のような男であれば一夜の夢だとか、遊びの付き合いで接することができるが、燕青のような男には本気で入れ込むことも少なくないのだ。
などの内容を酒を飲み交わしながら語っていると、いい加減本題に入れと静蘭に睨まれた。
まったく慇懃無礼とは彼のためにあるのではないかと最近思う。
「いや、だからね、燕青殿に本気になった女官がいるようなんだよ」
「それが私に何の関係が?あの熊が良いという女性に出会えたということでしょう、いいじゃないですか」
「…本気じゃないよね?」
「本気ですが?」
しれっと返す静蘭。
ただの天の邪鬼なのか、女官に燕青をとられない自信でもあるのかは分からないが、伝えたいことは言ったと会話を打ち切った楸瑛に静蘭もそれ以上何も言わなかった。
嫌なことを思い出したと静蘭は宮廷へ向かう足を一瞬止めた。
その変化に燕青が気付かぬ訳もなくどうした、と目で問うてくる。
「いや、なんでもない」
短く返しながら、嫌な気持ちは楸瑛のお節介に対するものなのか、燕青のくせに好意を寄せられたことに対してなのか考える。
答えなど最初から分かっていても考えずにはいられない。簡単に認めるのはとても悔しかったのだ。
それでもやはり気になった。
「燕青、お前………」
「?」
「………。」
「静蘭?どした?」
聞けるわけがない。
心配そうにのぞきこむ燕青を押しのけて、静蘭は足を進めた、と、そこで後ろから燕青を呼びとめる声がした。
「浪燕青様!」
その上ずったような声音に静蘭は嫌な予感しかしなかった。
無視しろ、と願った静蘭の気持など知るはずもなく燕青はその女官を振り返った。
「あれ?あんた確かこの前…」
「はい!覚えていてくださったのですね…」
「ははっ、まあな」
静蘭は振り返ることもできず、かといって立ち去ることも出来ずにその場に立ち止まったままだった。
女官と燕青が顔見知りだなんて聞いてないぞと内心で楸瑛に文句を言ってみる。
その間にも2人の会話は弾み、嬉しそうな女官の声も優しく答える燕青の声にも腹が立つ。
「あの時のお礼がしたいのですが」
「いや、別にお礼言われるようなことじゃねえから気にすんなよ」
「いえ、でも…」
そこからまだいくつか言葉を交わした2人だったが、燕青の連れが待ってるからという言葉でとりあえず止めたようだ。
「失礼します」
「ああ、またな…悪い静蘭待たせちまって」
「…別に」
むすっとしているのは分かっていた。
いつものことながら燕青の前では感情が全然制御できなくなる。
燕青がおや?という顔をしたが取り繕う気もなかった。
本当にイライラする。
「せいら――っ!」
王宮の真ん中で口を塞いでしまいたくなるほどに。
やきもち
ずっと自分だけ見ていればいいのに
END
燕青はモテると思います。
貴族の坊っちゃん楸瑛と正反対な「漢」って感じで(笑)