温度差







※学生パロ
同級生




木の葉が色づきを薄め、季節が冬に移り変わろうとしているころに静蘭は進学が決定した。
しかも有名私立へ授業料免除という特待で。
まったく頭がいいとこんな時に有利だと思う。
頭も顔もいいが性格は少しばかりひねくれている恋人を思い出して、燕青は持っていた教科書を放り投げた。




「…教科書を投げるな馬鹿」

「あれ?静蘭?」



燕青の部屋で聞こえるはずのない声に頭を巡らせると、呆れた顔の静蘭が入り口に立っていた。



「なんで俺の部屋にいんの?」

「来たら悪いか?」

「いや、嬉しいけど…なんか久しぶり?」



静蘭の顔をみるのが結構久しぶりなことにふと気付く。
学校が休暇に入ってから日数を数えるのも忘れるほどに家にこもっていたのかと思いだすと、急に部屋の換気やほこりが気になった。
だがそれよりも久しぶりに見る静蘭に心が躍る。



「…入るぞ」

「あ、おう。あー…座れるとこないかも…」



教科書やノートをはじめ色々なものがごちゃごちゃと広がる床に嘆息すると、静蘭は当然のようにベッドに腰掛けた。
その場所は忍耐力を問われるから正直止めて欲しかったが、座る場所がないのだから仕方がないだろう。
今度から2人座れるスペースくらいは確保しておこうと心に決めた瞬間だった。



「英語か?」

「そうなんだよなー。さっぱり分かんねー」



放り投げた教科書を拾い上げ、静蘭がぱらぱらと中身をみる。
理系に進もうが文系に進もうがついてくる英語が燕青は一番苦手だった。



「英語に足を引っ張られたら落ちるぞ」

「うげ、落ちるとか言うなよ」



受験生の禁止ワードと言われるが、実のところ燕青は全く気にしていない。
ただ、ポーズとして嫌がるふりをしてみたのだが、静蘭には見通されていたらしくふん、と鼻で笑われた。



「笑うなよ」

「お前が似合わないこと言うからだ」

「ひでー」



軽口を叩きながらちらりと静蘭を見あげる。
静蘭は用もなく燕青の部屋を訪れるようなことはしない。
ならば何か用事なのだろうと静蘭の言葉を待つが、静蘭はぼんやりとベッドに腰掛けたままだった。



「静蘭?」

「何だ、お前はさっさと勉強しろ」

「いや、なんか用事じゃねえの?」

「…別に」



ん?と燕青の胸が期待に躍る。
目を反らして眉間にしわを寄せ、さも不本意なことだという表情をする静蘭。
それが照れ隠しであることなどすぐに分かった。
知らず知らずのつちに緩んだ頬を静蘭の指が容赦なくつねる。



「なにを笑っている?」

「いててて、いや、何でもない」

「じゃあさっさと勉強しろ、馬鹿」



今度こそぷいっとそっぱを向いてしまった静蘭だが、出ていく気配はない。
そのことに燕青は喜びつつも、あることが気になりペンを置いて静蘭に近づいた。
なんだ、と無言で睨みつける静蘭の手を握りしめる。



「おい、なんの―」

「やっぱお前手え冷たすぎ!」

「…は?」



静蘭の手、特に指先はヒヤリどころか氷のように冷たい。




「外そんなに寒いのか…ってうわ!」




背中になっていた窓を振りむいた燕青が驚いた声を上げる。
いつの間に降っていたのか、外は銀世界までとはいかずとも、薄い白に覆われている。



「いつの間に…」

「3時間ほど前からずっとだ。気付いてなかったのか?」

「これでも一応一生懸命勉強してたからなー。というか静蘭この雪の中歩いて来たのかよ…」



道理で冷たいはずだと両手を握りこむ。
冬でもあまり体温を奪われない燕青の温かい手が、静蘭の手をじんわりと温めていく。
そうしてなんとなく会話は途切れ、しばらくお互いに黙って手を握り合う。



「おい…離せ」

「んー、もうちょっと」

「もう温まった、離せ」




離せ、離せと手を振る静蘭の手を更に強く握りしめる。
互いの体温が溶け合って、生温い。



「燕青…いつまでやってるつもりだ…」

「俺が満足するまで」

「、っ」



はあ?と顔を上げた静蘭の唇に触れるだけのキスをする。
驚いた顔をする静蘭が可愛くて、もう一度、と欲張りそうになるが必死で耐えた。
その必死表情なままへらっと笑ってみる。
たぶんおそらく、ものすごく情けない顔だとおもう。



「俺すっげえ欲求不満なんだけど、受験終わるまでこれで頑張るからこれくらい許してくれ」

「……お前ほんっとアホだな」



呆れたような静蘭の声だが、怒ってはいない。
窓の外をちらりと見ると雪は勢いを付けて本降りになってきたようだ。
このままだと帰るのも困難になりそうだし、今日は静蘭はお泊まりだな。
燕青は嬉しそうに相好を崩すと、やっぱり欲張って二度目の口づけを仕掛けた。



温度差
いずれ溶け合って同じになる






END


ひらつか様より8万打キリリク

【受験】と【雪】をテーマに、とのリクエストを頂き
テーマを頂いたリクエストは初めてだったので新鮮かつ面白く書かせていただきました!
そえてるかどうかは別として…(←

ひらつか様いつも応援ありがとうございます!
素敵なリクエストもありがとうございました!


2010,3,19






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