穏やかな休日









ぽちゃん
小気味のよい水音を立てて魚の尾びれが一瞬水面に見えた。
山の少し分け入った処にぽかりと現れたかのような池の辺。
紅家のみんなでよく散歩に来た場所でもあった。
まだ少し冷気を帯びている風も気持ちがよかった。





穏かな休日









静蘭は久々に感じるのんびりと落ち着ける時間にふうと短く息をつく。
そして座る自分の腰に抱きつくような恰好で眠る黒髪の男に目を落とした。



「寝ていれば少しは可愛げもあるのにな」


ぽつりとつぶやいて、穏やかな気持ちのまま燕青の髪に触れた。
見た目より随分と柔らかいその感触すらも静蘭を落ち着かせる1つになる。
平素ならばすぐにでも池に叩き落とすであろう燕青の行動も今日ばかりはそうする気もおきず、ただただ空や池を眺めていた。
何より膝に感じる温もりを嬉しいと感じていた。




ふと気がつくと辺りは薄紅色に染まりつつあった。
驚いて起き上がろうとして、頭の下の柔らかい感触にその動きが止まった。



「おはよう静蘭」


真上から見下ろしている燕青にふわりと笑いかけられようやく自分の置かれた状態を知る。
ゆっくりと燕青の膝から頭を起こし、体に掛けられていた彼の上着を掴む。


「いつ起きたんだ?」


「結構前だぜ。起きたら静蘭寝ちゃってたから今度はお返しに」


俺がなと言いながら膝を示す燕青。
膝枕のお礼を言うべきなのか、起こさなかったことを怒るのべきなのか分からなくなって結局静蘭は何も言わないでいた。
とりあえず上着だけは返しておく。



「静蘭」


呼ばれて顔を上げると唇を塞がれた。
互いに寝起きで少し乾燥した唇だったが酷く優しかった。
そしてそれは触れるだけですぐに離れていく。
戯れのような接吻。



「っそんな顔すんなよ」


「は?」


「静蘭すっげえ色っぽい…」



物足りなさげに自らの唇を指手辿るような仕草をした静蘭。
それだけで燕青の熱が一気に上昇した。
ぱたんと後ろへ倒れこむ。
平常心を取り戻そうと目を閉じて息をつく。





色っぽいと言われた静蘭は一瞬だけ照れたような素振りを見せたがその後は平静を保つことに成功した。
隣に寝転んでしまった燕青を眺めているうちに、ふと燕青をからかいたい衝動に駆ら静蘭は燕青との距離を詰めた。



「?」


ふいに翳ったことに瞳を開くと静蘭の顔が眼前まで来ておりびっくりして目を見開く。



「静らっ・・・!!!」


名を呼ぼうとしたが途中で途切れる。
ぺろ、と静蘭に唇を舐められて。
同時に思考まで止まり、目を見開いたまましばらくの間硬直していた。



悪戯に成功した静蘭は満足そうに笑っていたが、燕青のあまりの驚きように段々と居心地が悪くなってくる。




「…お前乾燥しすぎだ…」



苦し紛れに言い訳じみたことを口にすると燕青がようやく呪縛から解かれたように身じろぎした。
そして夕日が落ちても尚赤いままの静蘭の頬を見てへらりと笑み崩れた。



「静蘭も乾燥してたぜ」


「うるさい。水分を取ってなかったんだ仕方ないだろ」


「そうだなー。じゃそろそろ帰るか」



にやにやと締りのない顔をした燕青にお前の家じゃないと一喝して静蘭も立ち上がる。
繋がれた手に目を落とし。
たまにはこんな日も悪くはないと素直にないきれない感想を述べる。
燕青はうれしそうに笑った後もう1度唇を合わせる。
重なり合った影はしばらく離れそうもなかった。








END


◇あとがき◇


8338hitキリリクです。
紫苑様より「日常で甘い双玉」とのリクを頂きました。

紫苑様
お待たせして申し訳ありませんでした。
甘を意識しすぎてかなりキャラ崩壊気味な駄作となってしまいましたがよければ貰ってやって下さい。

甘くて誘い気味の静蘭を書くのは楽しかったです。
リクエストありがとうございました。



2008/2/2 氷雨 澪






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