刻印に込める想い








いつもの朝。
隣に眠る限りなく寝起きの悪いこの部屋の主を起こさぬよう、気だるい身体を起こして自分の部屋まで戻る。
任務がない時は彼が起きるまで待つのだが、今日は任務もあるのでさっさとシャワーを浴びてしまいたかった。


「あ゛?!」


部屋までの廊下で数人の部下と擦れ違った。
そんなことは至極当たり前で、部下だって頭を下げて通り過ぎて行くだけなのだが、何故か視線を感じる。
1人からの視線ではなくて、多人数からの恐る恐るといった体の。
思わず凄むと一目散に逃げられた。




刻印に込める想い






「次の任務は何だぁ…こんなん幹部の仕事かぁ?!」


部屋の机に無造作に置かれた指令書に目を通すと、あまりに単調な任務で拍子ぬけする。
2時間もあれば終わりそうな内容だ。
時間を逆算にながら、これならのんびり準備をしても大丈夫そうだとシャワーではなく湯船に湯を張ることにした。



そして数分後、風呂に入ろうと服を脱ぎ、脱衣所に備え受けられた鏡を見たときに朝の視線の正体が分かった。
首筋から胸にかけて大量に残る鬱血の跡。
一気に力が抜けてザブリと湯船に沈む。


「あんまりだろボス…」


口から出るのはこれを付けた本人の愚痴。
幹部連中は関係を認知しているか良いとして、下の連中は知らないのだから勘弁して欲しい。
こんなことで失墜するような信頼ではないにしろ、自分の上司が男に抱かれていると知ればいい思いはしないだろう。
少なくとも俺は嫌だ。
自分の上司=ザンザスの式に当てはめてゾっとした。


「消えねえ…よなぁ…」


当然任務には部下も着いて来るわけだから、こんな姿を見られるのも嫌でどうにかしたいがどうすればいいのか分らない。
本当にめんどくさいことをしてくれたものだと詰る反面、ここまで愛されて嬉しいとも思ったりする。




まあしかし遣られっ放しというのも癪なので、今回はボスにやり返してやろうと思う。
ベルにからかわれたり、直属の部下に妙に憐れんだ視線を送られたりしたからではない。
決してない。










チャンスを伺う必要などなく、ほど毎日体を重ねているのだからキスマークを付ける機会は幾らでもあるわけで。




「はっ…ボス…」


「違うだろカス」


「あっ、ザンザ、ス…っ!」


「あ?」


「…す、好きだぁ…」



首筋に吸いついた途端、怪訝な顔をするので滅多に言わない言葉を紡いで気を反らせる。
眉間にしわは寄ったままだったが、突然キスされて何も考えられなくなる。


ボスの脈打つものが体内に埋められ、揺すられる。
繋がった部分から体が溶けていくような感覚を覚え、咄嗟にしがみつくと優しく背中を支える大きな手。
変だと思った。
でも冷静に考えられる理性などとっくにどこかへ行っていて、その時はただただ自分が付けたザンザスの首筋の赤い跡を確認するだけで。
女のような嬌声をあげて、何度目か分からない熱を放ちながらゆっくりと瞼を閉じた。










「起きろカス」


「ん、あ゛…?!朝かぁ…」


「今日の任務だ」


珍しく俺より早く起きたらしいザンザスは、これまた珍しく俺を優しく起こした。
重たい瞼を無理やり開き、赤い瞳を確認して安心する。
短く告げられた今日の任務内容を聞きながら、彼の首の跡を見た。



「そんなにこれが気に入ったか?」


「え?」


じっと眺めていると、口の端に薄笑いを浮かべたザンザスが自らの首筋、赤いキスマークを触った。
気付かれていたとか、そんなことを思う前にどさりともう1度ベットへ押し倒される。


「所有印か…悪くねぇな」


呟かれた声は至極小さなものだったが、聞き洩らすことなく、俺は弾かれたようにザンザスを見上げた。
そこにはやはり薄笑いを馳せたザンザスの顔。



「俺も付けてやろうか?カスザメ」


「え、いや…」



楽しそうな。
本当に楽しそうなザンザスの顔が迫って来て、ぎゅっと目と閉じると顔の下でカチャンと金属音がした。



「あ゛?」


恐る恐る伸ばした手に触れた冷たい金属。
ゆっくりと指で辿ると、それはまぎれもなく南京錠で止められた首輪。
すがる思いでザンザスを見れば。


「とって欲しけりゃ任務を終わらせて来い」



もう2度とザンザスに復讐なんてしないと、このときばかりは堅く心に誓った。




End




○あとがき●

8228hitで空様からのリクでした。
長らくお待たせして本当に申し訳ありませんっ!!!


スクが襲おうとして逆に倍返しされるお話…

とのリクだったんですが、そえてますかこれ?;;


なんか色々キャラ崩壊気味で申し訳ないです;;;

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。


お読み下さった方、およびリクして下さった空様。
ありがとうございました。


2007/12/31 氷雨 澪






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