木の実拾い








空気も冷たくなり、青々としていた木々は赤や黄色に染まっていく。
季節はすっかり秋だ。








―木の実拾い―








「静蘭!!こっちこっち」


「何だ、何があった?!」


燕青の呼びかけに素早く反応する静蘭。
彼らは昼過ぎから龍山に来ていた。



「これは…よくやった燕青。」


大量に転がる栗を見て満足そうな静蘭に、燕青は隠れて微笑する。
静蘭は上を見上げ、まだまだ生っている栗を嬉しそうに見ていた。
そんな姿を可愛く思いながら眺めていた燕青だが、次の言葉で固まった。


「お前がいがから中身を出せ、私がそれを籠に入れる」


「俺が出すの?!」


思わず素っ頓狂な声を出した燕青に当たり前だとでもいうように1つ頷く。
燕青にとって栗のいがを出すことくらい造作もなかったが、何しろ量が量だ。
籠は2人の背中に背負われており、籠は裕に赤子1人は入る大きさだ。

「まさか籠いっぱいになるまでとか言わないよな?」

「栗は乾燥させても美味しいからそれぐらいあった方がいいだろうな」


静蘭の答えにがくりと脱力する。
でも逆らうことはせず、文字通り『山のような』栗の中身を取り出していく。






「さすがに山で過ごしていただけあるな」


しばらくして静蘭が小さく言った。
黙々と作業を続けていた燕青は手を止めて、立っている静蘭を見上げた。
尊敬とまではいかないが、その瞳には感心したような光がある。
燕青は立ち上がり、静蘭と目線を合わした。


「静蘭もやってみる?」


少し考える素振りを見せた後、静蘭はゆっくり首を振った。


「お前のほうが早い。」


まるで言い訳のように付け足された言葉に吹き出す。
静蘭は不愉快そうに整った眉を寄せ、それから身振りだけでさっさとしろ、と伝えてふいっと背を向けてしまった。
燕青はそんな彼にもう1度笑みを漏らすと、すぐに作業に戻った。









「こんなもんだろ」


日も傾き、辺りが仄かにオレンジ色に染まってきた頃、栗でいっぱいになった2つの籠を見ながら燕青が満足げに立ち上がった。
長時間作業を続けていたからだろう、声には少し疲労が混ざっていた。


「ああ。その…た、助かった」

言いよどんだ後にそう言って、すぐに視線をそらす静蘭。
それだけで疲れがとんでいく気がするのだから自分も現金なものだと、静蘭に手をのばしながら燕青は苦笑する。


夕日が反射して赤く染まるなめらかな頬をするりと撫ぜると、照れ隠しか、少し睨まれる。
そんなことは気にせず、燕青は空いている手で静蘭を抱き寄せて、その唇にそっと自らのものを被せた。
最初は軽い口付けが、角度を変え深く重なる。


「ん…っふ」


空気を取り入れようと、無意識に開いた静蘭の口に舌を忍び込ませ絡め捕る。
甘い吐息が漏れ、燕青の背中にゾクリと甘美な震えが走った。
もう外でもいいか。
燕青がそんなことを考えた矢先だった。





ぽと




軽い音をたてて、頭上からまだ青い栗が落ちてきた。


「いってえ!!!」


その栗は見事に燕青の頭部に落ち、その痛みで彼は静蘭から身を離した。
呼吸が乱れ、目がかすかに潤んだ静蘭は、何事かと燕青を見、状況を理解した瞬間盛大に吹き出した。



「笑うなよ静蘭〜」


「栗に攻撃されるなんてお前らしい」


「くそっ、この栗め、静蘭との時間を邪魔しやがって!!」


栗に悪態をつく燕青を見て静蘭はまた笑う。
そしてまだ青いその栗をいがに刺されぬよう、そっと持ち上げ、籠の中に入れた。


「静蘭?そんなもんどうすんだ?食えないぜ」


「分かっている、お前の不埒な行為を止めてくれた栄光を称えて屋敷に飾っておこうかと思ってな」


「な!?そんなお邪魔栗いいことねーって!静蘭」


燕青の言葉を無視して、すっかり暗くなった道を下山していく。
そんな静蘭を燕青は慌てて追いかけて行く。





その日、紅家の夕飯は栗ごはんで、机の上にはあの栗がちょこんと置かれていたそうだ。






End


●あとがき

5000hitを踏んでリクして下さった捺様へ捧げます。


捺様
大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした!!!
双玉甘話、とのことだったので栗拾いの話にさせて頂いたんですが…はたしてこれは甘いのでしょうか;;
重ね重ね申し訳ないです。



皆さん栗拾いしたことありますか?
私は足でいがの中から実を取り出すんですが、燕青はもっと早くていい方法だと思ったのであえてそのシーンの描写は入れませんでした。



ここまで読んで下さってありがとうございました。

捺様のみお持ち帰り可です。


2007/10/18 氷雨澪






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