手の内には君の笑顔







今日もいつものように並盛の町に出向いて、群れてる草食動物達を噛み殺し、また並盛中の応接室へ戻る。

いつもと変わらない日常。
のはずだった。
だったのに…………








―手の内には君の笑顔―




「よう恭弥!!」


「な、んでいるの…?!」



応接室に戻ると、今朝別れたばかりの金髪の恋人。
キャバッローネファミリーの10代目ボス。
ディーノが我が物顔でソファに腰かけていた。



「早く仕事が終わったから会いに来たんだ!」


「ふぅん……」


びっくりして二の句が繋げなかった。
素っ気ない返事になってしまうが、ディーノは気にせずつかつかと僕の方へ歩いて来る。
そして僕の髪に指を絡ませながら口を開く。


「今日は何でこんなに人少ねえんだ?」


「夏休みだからね。クラブ以外では登校禁止だよ」


「夏休み……か」


髪を触る腕を掴んでも、めげることなくその手にキスしてくるディーノ。
含みを篭った声音で夏休みと繰り返すから、怪訝に思って見上げると額にキスされた。
僕としたことが不覚だった。



「恭弥、飯行かないか?」


「は!?いきなり…」



「よしっ行こうぜ!!」



「え?ディーノ!?!?」


僕の抵抗も虚しく、ディーノに手を引かれてさっき入ったばかりの並盛中の門を潜る。
そしていつの間に来ていたのか、ディーノ愛用の赤い……ポル、シェ?だかそんな名前の車に乗せられた。












「ねぇ、何処行くの?」


2時間近く走ったかもしれない。
いつもは近場で済ませるのに、あまりに距離が長いので、不思議になって尋ねてみた。


「イタリア料理…かな?」


曖昧な答えにイラっとする。


「何?僕には言いにくいような所なの?」


「あーまぁ、怒るか…呆れるかされそうだな……」


トゲのある言葉にも、また曖昧な返事を返される。
怒るか呆れるということは、ものすごい高級店かなにかだろうか。


「もういいよ。降ろして。タクシーで帰るから」


一気に機嫌が悪くなった僕は、ディーノと運転するロマーリオに言った。
するとディーノは僕の両腕を掴んだ。
正直ちょっと痛い。


「恭弥、頼むから一緒に来てくれ」


真剣すぎるディーノの眼差しが少し怖い。
それでも、そこで引き下がるのは自分のプライドが許さなくてじたばたと暴れる。


「恭弥!!」


名前を呼ばれるが知ったことではない。


「降ろせ!!」


「恭弥落ち着け!!」


「僕は落ち着いてる」


「恭弥!」


「黙れ、早く車とめ…ッ…!??」

不毛とも思える言い争いの途中、僕の言葉はディーノのキスによって封じられた。


「ふ…っんむ……!!?」


しかしそれはただのキスではなくて、絡み合う舌の上にいつの間に用意したのか、小さな錠剤を乗せられた。
つまりは口移しで薬を飲まされたのだ。



「はぁ…ッ…何……飲ませ!?」


「恭弥ごめん。ただお前が好きなだけなんだ……」


「は!?なに……が……ッ!?!?」


意識が急速に遠退いて行く。
最後に見たのは、ディーノの金髪と形容しがたい笑顔だった。








何だか耳鳴りがする。
気持ち………悪い……。





ゴォオオオと言う音と、ふわふわとした浮遊感が気持ち悪く、僕は重い瞼を開いた。
開いた瞳に映ったのは、閉じる間際にも見た輝く金髪。
僕を眠らした張本人の姿なのに、どこか安心する自分がいる。




と思った途端、ドンという軽い振動がした。
怠い体を無理矢理起こす。


「な、に?」


「恭弥!?起きたか……」


ディーノはびっくりした顔をしたけど、すぐに柔らかく笑った。
僕には絶対出来ない笑顔だ。



「ボス、着いたぜ。…お、恭弥起きたか。気分はどうだ?」



後ろからロマーリオがやってきた。
室内を見回すと、何か乗り物のようで……。


「飛行…機?」


ロマーリオの質問には答えず、というか答えられず、思ったままのことを口にする。
そう、ここはまるで機内だ。









思った通り、あそこは飛行機の中だった。
しかもキャバッローネ所有のジェットだ。


着いた先はディーノの故郷、イタリア。
キャバッローネの屋敷だった。












「信じられない!!!早く日本に帰して!!」



薬が完全に抜け、しっかりした意識の元、開口一番そう怒鳴った。



「嫌だ。」



まるで駄々っ子のようなディーノの返事。



「嫌とかじゃなくて…分かってるの?これは誘拐だよ?」


何時もにも増して変なディーノが少し心配になる。
いくら何でも、ここまでするとは思っていなかった。



「分かってる。分かってるけど……恭弥。今恭弥が俺の屋敷に居るって思うだけですげー幸せなんだ……」


切なそうに、でも嬉しそうに言うディーノを不意に抱きしめたくなった。
なんだか…勘違いかもしれないけど、彼は病んでいるように見える。
何かあったのだろうか。
考えるだけで行動に移せない自分に苛々する。



「悪い……恭弥。」


「謝るくらいなら始めからしなければいいのに…案外馬鹿なんだね貴方も…」



言葉を発したら、床に張り付いて動かなかった足が前に出た。
自然と体は動いて、僕はディーノのたくましい胸板に全身を預ける。
ディーノが驚いたように息を飲むのがわかった。



「恭、弥……!??……恭弥!!」



恐る恐る名前を呼ぶから、腰に回した腕に力をこめた。
すると次はしっかりした声で名を紡ぎ、苦しい程の力で抱きしめられた。



「恭弥……好き……愛してる……恭弥………」


何度も、何度も繰り返される愛の囁き。



「いきなり、不安になった…いや、前からずっと不安だった………イタリアに帰って、恭弥のこと考えるだけで眠れなくて」



僕を腕に閉じ込めたまま、静かに語りだすディーノ。
あの薬はディーノの睡眠薬だったようだ。
話の内容はひたすらに僕との距離が不安だった、ということ。
何度も好きだと言われて、何度も謝られた。







「馬鹿だねやっぱり。貴方だけが不安だったみたいな言い方しないでよ。」



少し落ち着いた頃に、ぽつりと言う。
ディーノはびっくりしたみたいだか気にせず続ける。



「僕だって……貴方が居なくて……寂しかった、んだから!!」


恥ずかしくてスムーズに言葉が続かなかったが、言いたいことは伝わった。
その証拠に、ディーノが太陽のような笑顔をしたから。
思わずつられてこちらまで笑顔になる、そんな笑顔。



並盛も好きだけど。
貴方のそんな笑顔のほうが何倍も大好きだから、もう少しなら此処に居てあげる。




そんな思いが伝わればいいと思いながら、初めて僕からのキスをした。





End


●あとがき

七瀬心様による3003hitのキリリクでした。

七瀬様、遅れてしまって本当にごめんなさい!!
しかも、お待たせした上こんな駄作で…;;
DHでイタリアへ拉致という素敵なリクだったのに私の力不足故、こんな出来に…。
なんだかリクに沿えているのかさえ心配です。
こんな作品ですが良ければお持ち帰りして下さい。
リクありがとうございました。

七瀬様のみお持ち帰り可です。

それではここまで読んで下さってありがとうございます。
皆様に幸多からんことを。


2007/9/30 氷雨 澪






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