My Wish=Your Wish
My Wish = Yuor Wish
その日静蘭が邸に帰ると、竹が数本立てかけられていた。
そこにつるされた紙に目を落とす
「『背が大きくなりますように』?」
子供の字で書かれたそれは何枚もぶら下がり、竹をゆるやかにしならせていた。
どう見ても願いごとのそれらに静蘭はますます首をかしげた
(何かのまじないか?)とも思ったが、それにしては願いがやけに無邪気だ
『花火が見れますように』と書かれた紙を摘み見ていると後ろから秀麗が現れた
「あら静蘭、おかえりなさい。勝手に見たら怒られるわよ」
「ただいま帰りました。…お嬢様これは?」
「静蘭にはまだ言ってなかったわね。今日はね七夕なんですって」
「たなばた…?」
聞きなれない言葉だ。
秀麗の説明によると東の島国の説話らしいのだが
「……だから今日は織姫様と彦星様が年に1度だけ逢瀬を許された日なの」
「なるほど…。それと願い事が何の関係が?」
「さあ、知らないけど…こうして笹にお願い事を下げるのも風習らしいわ。えーと、なんて言ったかしら…」
「短冊だろ、姫さん」
思いだそうと宙をさまよった秀麗の後ろからひょいと姿を現した燕青。
その手には短冊が握られている。
「よ、静蘭。お前も書くか?」
そしてその束の1枚を静蘭に差し出してくる。
秀麗の手前突っぱねることもできず、仕方なく受け取ったそれはただの紙きれで
こんなもので願いが叶ったら苦労はしないと思うのだが、子供たちの無邪気な願いを前に口にすることでもない。
「静蘭はいつも何も贅沢言わないんだから、こういう時にがっつりお願いしとくのよ!」
「がっつりって…」
勢いこんで言う秀麗に苦笑を返し短冊に視線を落とす。
(私の願い、か…)
しばらく東の島国について話していたが。少しすると秀麗は子供に呼ばれ行ってしまい、燕青と2人残された。
「お前は書いたのか?」
「いや、まだ」
まだ、ということはこれから書くつもりなのだろうか。
子供心を忘れない燕青が少し羨ましくなる。
世間を斜めから見ているような自分では、こんなかわいらしい行事に対し自嘲するような笑みをうかべることしかできないというのに。
「お前はもう少し頭を良くしてもらうことだな」
「じゃあ静蘭は性格か?」
冗談混じりで返された言葉に思い切り睨みつけると、冗談だと言って髪の毛をくしゃりと混ぜられた。
そんな触れ合いにすっかり慣れてしまっていることに嘆息しながら手の中の紙を燕青に突き出す
「ともかく私は興味がない、返す」
「そう言わずにとっとけよ。ちゃんと書いて吊るしとけ」
姫さんに怒られるぜと言われ、静蘭も仕方なく短冊を書くことにした。
ここは無難に『一家健康』あたりにしておこうかと筆を取ると、隣の燕青の短冊がふと目に入っていきた
「お前…やっぱり阿呆だな」
「阿呆でいいんだよ!叶ったら俺が嬉しいから」
燕青らしい答えに苦笑し、静蘭もさらりと筆を走らせた。
『二度と離れませぬよう』
誰がとは書かれていない2つの同じ文面は、互いに分かればそれだけでよかった。
星の願いを口実にした想いを、互いにしっかりと胸に刻む
END
七夕記念
2009.7.7