譲れない最後






譲れない最後






恋人の欲目とかでなく、誰の目から見ても静蘭は綺麗だと思う。
武官のくせに細身の体。美しく手入れの整った髪に、決して女性的ではないが目鼻立ちの整った美しい顔。
しかし静蘭が人を引き付ける最大の要因は、その身から醸し出される色香のせいではないだろうか。
男女問わず虜にしてしまう魅力には、静蘭本人も気付いているので危ない目に遭うことは少ないようだが、自分に好意を持つ人間(特に下心もある男)はうまく利用するため恨まれていないか心配だ。




「静蘭、あんまりその気もないくせに貢がせてっといつか刺されるぞ?」

「何だ、嫉妬か?」



今日もどこの誰だか分からないような男に貰いものをしたらしい。
机の上に広げられた衣は明らかに高級品だ。なんとも脱がせやすそうな造りに渡した男の底浅さが窺えて少し笑える。



「着るのか?」

「そうだな…色は好みだ」



私の好みをよく分かっている、そう続けた静蘭にちょっとむっとする。
静蘭に対しての心の広さはかなりあるつもりだが、どうもその反動か静蘭に近づく男に対してはかなり狭い自覚がある。
顔にも出ていたのだろう。燕青の顔を見て、静蘭は楽しげに頬を上げた。



「悔しかったらお前も何か寄越せ」

「やだね、あげちまったらそこらの雑魚と一緒みたいでつまんねー」

「なら文句を言うな、これで家計が浮く」



がめつい主婦みたいな言葉を残して、静蘭はその衣をさっさと仕舞い込んだ。









静蘭がその衣を着たのは案外早く、5日も経ったころだった。
本当に気に入っていたのかとやっぱりちょっとむかっとしたが、それ以上に絹の上品な青色は静蘭によく似合っていた。



「ふぅん…綺麗だな」

「ん?」

「服、マジで似合う色だし造りだし」



ゆったりとしたその服は、普段の服よりは少し露出部分が多い。
ちらりとのぞく白い肌は普段きっちりとしているだけに妙に色っぽい。
この姿で外に出すのはなんだかまずい気がした。




「どっか行くのか?」

「…いや、予定はない」



ならばなぜ着たのかなんてバカな質問はしない。
燕青はにやりと笑って静蘭の手を引いた。
そのままの勢いで口づける。
予定がないなら好都合



「他の男から貰った服なんてさっさと脱いじまえ」







あげる。きる。ぬがす。
譲れない最後の行為

思った通り、その服はものすごく脱がしやすかった。








END



他の男に貰った服を燕青が脱がすという
名もなき哀れな男を書くのが楽しくて仕方ない







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