掃き溜めログ

 



お腹が痛い。
ような気がする。





「お前は登校拒否の小学生か」

イラついてんのがよく分かる声で、吐き捨てられる言葉。
櫂は腕を組んで眉間にしわを寄せて、俺を見下ろしていた。
迷惑をかけているのは分かってる。目を合わせてるのがつらくなって顔を伏せれば、櫂は怖い声でこっちを向けという。

「これで何日目だ」

「……よっか」

3日間、俺は学校に行っていない。俺に巻き込まれて櫂も学校に行っていない。
だから今日学校に行かなければ欠席連続4日目になる。
そりゃあ変なとこ真面目な櫂は怒って当然だろうなぁ。
でも、どうしても、足が学校へと進まない。

「櫂怒ってる?」

返事は無い。
怒ってるくせに。でも、それ以上に俺の事心配してくれてるんだろうなぁ。櫂ってば優しいから。
文句言いつつこうやって何日も俺を泊めてくれるし、ご飯も作ってくれて、学校に行かずに一緒に居てくれる。

「学校で何かあったのか」

櫂らしい冷たいんだか優しいんだかよく分からない言葉が何となく心地よくて、ベッドの上で寝返りをうつ。

「何かあったっていうか……何もないからっていうか……」

「どういう意味だ」

ごにょごにょと小さな声で言葉を零しても、櫂はしっかりと聞き取ってくれる。
ポケットから携帯を取り出して見てみると、7時12分という時間を表示していた。

「俺さ、櫂ん家泊まるとか何も言わずに家出てきたんだ」

家族から何て言われるかなーって、軽い興味で、わざと大荷物持って出かけたって分かるようにして、それで出てきた。

「そしたらその日の夜に姉貴からメール来てさ、あんた今何してんの?って」

だから、どんな反応するかドキドキしながら、メールで「櫂と駆け落ちする」って返したんだ。

「んで、それに返ってきた返事何だったと思う?」

櫂はただ黙って無表情で俺の話を聞いている。
うん。ばかみたいな話してごめん。

「『櫂くん家に泊まるなら言ってから行きなさい。その冗談つまらないよ』だってさ!」

ははは、とわざとらしく笑えば、櫂は少しだけ眉間にしわを寄せて怪訝な顔をする。
その顔結構好きだぜ。

「なんか、寂しくって。やっぱ俺たちってさぁ、人からみたら付き合ってるなんて信じらんないし、全然駆け落ちとかしなさそうなんだろうなぁって、思ったら、寂しくって、嫌になっちゃって」

お前最近クラスのやつとかと結構喋るようになったじゃん?だからさ、俺うれしーんだよ。お前がいっぱい友達作って、みんなの輪の中で笑えたら、俺はすげえうれしい。だって、人との距離を縮めて仲良く出来るようになるなんて、それは櫂が、辛い事がいっぱいいっぱいあったのに、少しずつ生きるのに余裕が出てきたって事だろ?
それって、めちゃくちゃ嬉しいんだよ、俺は。

「だけど、すごいすごいもーなっさけない我が儘を言えば、ホントは、すっげえ、さみしい」

「……三和」

櫂は俺の名前を呟くが、特に話を止めたりはしない。何故だか寂しそうに俺を見つめるだけ。

「俺らさぁ、学校では、付き合ってるってバレないようにしてるじゃん。そりゃ、ホモなんて歓迎されないだろうし、キモがられたら絶対立ち直れないし」

でも、それでも、クラスで俺らがホモだって噂されて、何となく『本当か分からないけどあいつらホモらしい』って感じに思われてる時期があった。

「俺、実はあれ嬉しかったんだよなぁ」

最近は櫂が他の奴とも話すから、その噂も無くなったけど、ああやって噂されると、何となく、俺と櫂は付き合ってて幸せなんだぜって、この櫂トシキは俺のなんだぜって、なんか、嬉しかった。

「そう思ったら、俺らが『親友』になる学校に行くのが何か嫌になって、ここでずうっと『恋人』してたいなぁなんて思ったら、体動かすのがだるくなったんだ」

ごめん櫂。

「なぜ謝る」

櫂はやっぱり無表情で、何を考えているのかよく分からなかったが、無言でベッドの上に上がり、俺の横に寝転ぶ。
櫂の顔がすぐ近くになる。

「うん、ごめん。明日はちゃんと学校行くし、家帰るから。もう一日だけ、お願い」

このベッドでだらだら過ごすのも4日目で、こうやって櫂が横に寝てくれるのは学校に行くのは諦めたという合図なのは分かっている。
そう思って、連日と同じように櫂の頬に手をそえようとして、腕を伸ばす。
しかし、腕は頬に触れる前に掴まれて止められてしまった。

「一回二度寝して、起きたら学校に遅刻して行くぞ」

そう言って、目を閉じる。
俺は驚いて何だか情けない声を上げて、ベッドから上体を起こした。

「いや、櫂、せめてもう一日、なんか、今日、お腹痛い気がするから……だから明日から……な?」

「駄目だ。今日がいい」

櫂は寝返りをうって俺に背を向けてしまう。いやいやいや、今日はもう行くつもりは無かったから、心の準備とか出来てないって……!まじで頼むよ、櫂。
もう一度寝転び、背中から腕をまわして櫂に抱きつく。
俺は櫂を怒らせてしまったのだろうか。

「なぁ、櫂……」

「…………うるさい」

振り向いた櫂は何故だか顔を赤くして、眉間にしわを寄せて俺を睨みつけるがどこか少しだけ嬉しそうな顔をしていた。

「3日間同時に休んだ挙げ句、4日目に一緒に遅刻してくれば変な噂にでもなるんじゃないか?」

若干の早口でそう言うと、また向こうを向いてしまう。
いや、ちょっと待って、なあ、それって、要するにさ、

「かぁい……!」

嬉しくって嬉しくって思いっきり櫂を抱きしめる。
櫂は早く寝ろと言うが何かもう嬉しすぎて二度寝なんてしてる場合じゃない。

「あーやっぱり櫂最高。ちょう好き」

幸せを噛みしめるようにもう一度櫂をきつく抱きしめた。




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