掃き溜めログ




それは授業で使う材料を買いに、櫂と2人でホームセンターに行った時のことだった。

そのホームセンターはわりとでかめのペットコーナーがあり、子犬や子猫だけじゃなく、ふれあいコーナーといった感じでそれなりに成長した大きめな犬なんかも居た。

先生指定の材料を探して店内をだらだらと喋りながら歩き回っていた時、そのペットコーナーの前を通った。
俺は気にせず通り過ぎようとしたが、わん!という元気のいい鳴き声が聞こえた瞬間、櫂の足が止まった。

「櫂?」

名前を呼んでも返事もせず、ただまっすぐと犬の方を見ている。
そんなに犬好きだったっけ?と視線の先をよく見れば、大型犬が嬉しそうに尻尾を振っていた。

「……光定?」

「は?」

櫂は俺の事など関係ないと言わんばかりにつかつかと犬の方へと歩いて行く。心なしか櫂の頬は珍しくゆるんでいる。
光定?ってシンガポール行ったあの光定?
なんで急に光定?

犬は近付いてくる櫂にわふわふと嬉しそうに尻尾を振り、ガシャガシャとケージの柵にぶつかる。その衝撃で柵にかかった『ゴールデンレトリバー』の札が揺れていた。

ケージの前に立つ櫂に、相変わらず犬は尻尾を千切れそうな勢いで振っている。
そのままゆっくりと手を伸ばせば、犬はペロペロと櫂の手を舐めた。
そんな意外にも動物に好かれるらしい櫂は、嬉しそうに両手を伸ばし、犬の耳の後ろをわしゃわしゃと撫で始めた。

「光定に似てる」

嬉しそうに犬を撫でる櫂と、嬉しそうに撫でられている犬は、それはそれはとても楽しそうで、そんな様子を見せつけられながら、どちらかと言えば顔よりも着ていた服の色の印象の強い知り合いに似ていると言われても「お、おう……」としか返せない。なんだお前ら。


「その子、人懐こくて可愛いですよねー!」

ただ無言でわしゃわしゃと犬を撫でていた櫂に、女性店員が声をかけてきた。
この犬が何歳だとか、聞き分けのいい賢い子だとか、そんな話を聞かせてくれる。
そして店員は最後に、黙って犬を撫でながら聞いていた櫂に「ペットお探しなんですかー?」と笑顔で聞いた。

「いや、恋人に似てたから……」

櫂が少し顔を赤らめてどもりながらそう呟けば、店員は微笑まし気に、そうなんですかー!と笑う。
そして、ゆっくり遊んであげて下さいね!と言い、違う客の所へまた声をかけに行った。
顔を赤らめたまま、櫂は相変わらずに犬とじゃれている。
なにその乙女顔はじめて見た……って、ん?

「……恋人?」

うん?恋人?
いや、えっ……恋人?

「えっお前、恋人いんの?」

突然の言葉に頭がついて行かない。
店員から逃げる為の嘘かも知れないけど、櫂はそんなに器用じゃない、はず……。
落ち着け俺。
つまり櫂には恋人が居て、その恋人とこの犬が似ていると?

「ああ、こいつ光定に似ているだろう」

嬉しそうに犬の頭を優しく撫でている。
腹が立つぐらいその『恋人』とやらへの愛が伝わってくる。
なあ、それってつまり……。

「お前、光定と付き合ってんの?」

「ああ」

衝撃の事実にとてつもないショックを受ける。
なにそれ、俺聞いてない。ていうかいつから付き合ってんだよ。全然知らなかったんだけど……。
予期せぬタイミングの突然の失恋は重く重くのし掛かる。
嘘だろ、そんな、全然そんな感じしなかったじゃん……?
しかし、そんなへこんでいる俺の事なんて知らずに、櫂は光定に似た犬と相変わらずにじゃれていた。
光定に似ているかは分からないが、けしていい気分はしない。
俺の敵はこの犬ではなく光定だと分かってはいるが、何となくこの犬にも敵意を感じる。
俺だって櫂が好きなんだぞチクショウと思いながら手を伸ばせば、犬は櫂の時と同じようにペロペロと俺の手を舐めた。
瞬間、何だかよく分からない物凄い敗北感に襲われる。

あーもー、俺だけ心が狭い嫌なやつみたいじゃんかチクショウ!!
こうなりゃやけくそだ!と、光定に似た犬を櫂と同じようにこれでもかと言わんばかりにわしゃわしゃと撫でた。


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