ちょっと三和櫂♀かもしれない。




 
ああ、そういえばと櫂は顔を上げて俺を見た。


「ジュンと付き合う事になった」

あっけらかんと言われた言葉に、思わず握っていたカードをぱらぱらと落とす。
確かに昨日「ジュンとファイトしてくる」とは聞いたが、何がどうなってそうなった。つか行くなって言っただろ。
カードを拾いながら混乱した頭を落ち着かせる。

確か昨日は櫂は生理痛が酷くて、青い顔でふらふらとしていて、それに加えて前日も生理痛で眠れなかったせいでかなりの寝不足で、それでもって生理痛のせいで食欲がなくちゃんとご飯を食べていない、そんな最低なコンディションだった。だいたい同じような体調の日に無理をして倒れる櫂を何回も見たことがあるから、大変なのはよくわかっている。
だから俺はジュンの所に行くな真っ直ぐ帰って寝ろと言った。筈なのに。

「お前昨日ジュンの所行ったのかよ……」

「急に行かないだなんて、逃げるみたいで嫌だ」

きっぱりと言い切られて、何も言い返す気になれず、そうですか……とだけ返した。
しかし何がどうなって付き合うに至るのか。
俺は昔から櫂と一緒で、櫂がこっちに戻ってきてからももちろん一緒。まわりのやつらにはあいつら付き合ってんのかとか色々言われてるけど、俺にとって櫂は姉であり妹であり、もちろん親友だ。そりゃあ櫂の事は大好きだし付き合えたら嬉しいけど、もし櫂に付き合ってくれと言われたらそれは何か娘に大きくなったらお父さんと結婚すると言われるような気持ちになるだろう。あっこれ近いな。今の俺の気持ちは正に愛娘に「彼氏ができた」宣言されたような気持ち。何に対しての嫉妬なのか分からないが、とにかく凄く嫌なのだ。

「……とりあえず付き合うに至るまでの経緯を詳しく」

「勝ったら付き合ってくれと言われて俺が負けた」

わあ、簡潔でわかりやすい。
思わず頭が痛くなる。馬鹿だろお前まじで。

「んな立ってんのもしんどい時に大事なもんかけんな!」

はああ、とわざとらしくため息を吐けば、櫂は少し顔を傾けて「まさか負けるとは思わなかった」だなんてほざきやがる。

「俺よりもジュンの方が驚いていた」

勝てないと思っていたんだろう。負ける気で挑むなんてファイターとしてどうかと思う。
そんなような事を櫂は無表情でつらつらと並べるが、多分ジュンは勝った事もだが櫂の凄まじい体調の悪さに驚いていたと思う。

「お前ぶっ倒れたりしてジュンに迷惑かけたんじゃねーの」

「……まあ、ファイトが終わって倒れてしまったらしく、気づいたらジュンの家だった」

「えっ」

お前ジュンの家行ったの?
びっくりしてまたカードを落とす。だめだ、集中できない。デッキ見直しなんてやってる場合じゃない。

「……なあ櫂」

「なんだ」

「お前処女?」

俺的には結構な決心で聞いてみたが、櫂はそのまま平然と「ああ」と返してくる。
ちょっとは恥じらえよ。いや、安心したけど。……いやいや、安心したってのもなんかおかしいけどさ。

「……ジュンとヤったら俺に報告しろよ」

「なんでだ」

いや、なんか、ジュンを一発ぶん殴りたいから?なんというか櫂が大事だから?いや、俺が櫂の処女欲しいとかでは断じてなくてな?
あーなんか、やだなぁこの感じ。
やっぱり、感覚的には処女の娘に彼氏ができたって感じだ。

「俺は櫂のお父さんだから娘の心配してんの」

お父さんという言葉に櫂は少し驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には嬉しそうに目を細めて「わかった」と呟いた。





ジュンから「娘さんを僕にください」とメールが届いたのはその2日後の話だった。


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