※櫂くん死ネタ注意




櫂が死んだ。

何だかよく分からないけれど、死んだ。俺の知らない所で死んでしまった。
担任教師曰わく『事故』で死んだらしく、それが交通事故なのか、なんなのかは分からない。
週始めの朝のホームルームで担任が真面目な顔で話をするまで俺は櫂が死んだ事を知らなかった。
連絡つかねぇなあまあいつもの事か、なんて呑気に過ごしていた昨日、既に櫂はこの世に居なかったのだ。
俺がだらだらと家でテレビなんかを見ながら暇にしていた一昨日の夜に、櫂は苦しんでいたのかもしれない。

そう考えても、実感なんてあるわけがなかった。
漠然と突きつけられた現実に脳みそがついて行かない。涙なんて勿論出ない。
俺の前の空席をぼんやりと見つめても、明日の朝「お前昨日どうしたんだよ?サボリかー?」なんて声をかける妄想が容易く出来る。
空席を見つめる俺の事を、クラスの連中がチラチラと見る。
あいつなら何か知ってるんじゃないかという興味だけの目。残念だけど俺も今知ったんだよ。
ガタッとわざとらしく大きく音を立てて立ち上がれば、クラスのやつらはびくっと肩を跳ねさせた。
「先生、俺早退します」

担任は何も言わなかった。


その日は帰ってすぐに寝た。
夢に櫂が出てくるなんてロマンティックな事もなく、起きたら夕方だった。気分がわるい。

しばらくぼんやりと何もない壁を見つめた後、そういえばあいつらは櫂が死んだってしらねえんだろうなあと思い、カードショップへ行こうかと思ったが、どうにもそんな気分になれない。
ポイントカードに店の電話番号書いてあったよな、と財布を漁る。
すると、もうすぐポイントがいっぱいになるカードが出てきて、あいつポイントカードとかめんどくさいって言って作らなかったから、俺がポイント貰ってたんだよなあと思わず苦笑いが零れる。どうすんのこれ、もうポイントたまんないじゃん。

ケータイのキーを押して、店へと電話をかける。
プルル……と数回鳴った後に、『はい、カードキャピタルです』という聞き慣れた声がする。その声にひどく安心する。

「あー、ねーちゃん?俺、三和」

そう伝えると、何だお前かと言わんばかりに『ああ』と返事が返ってくる。

『どうかした?電話なんて珍しい』

「あー……まあ、うん。今日さ、アイチとか、みんな居る?」
伝えなければと思うのに、自分からかけたくせに、何だか今すぐ電話を切ってしまいたい気持ちになる。

「ああ。アイチとカムイ、あと森川と井崎も居るよ」

どうかした?という声の後に、遠くに『俺ら?何、電話誰だ?』とバカみたいに明るい声がする。それに対しての『三和だよ』という返事。
伝えなければ、そう思い口を開こうとして、店に電話をかけたのは間違いだったと後悔する。

「ミサキちゃん、ほんと、俺もよくわかんねえんだけどさ」

『なに』

「櫂が、死んだんだって……」

途端に向こうから聞こえる息を飲む音。また聞こえる明るい「どうしたー?」という声。

『……なんで』

「事故、だって」

返事はない。
事故なんて、ミサキちゃんに言うのはとても間違っているような気がしたが、真実はどうにもぼかしようがなかった。

「……あいつらにさ、かわって貰っていい?」

あいつらにも言わなきゃいけないから。
そう呟くと、電話の向こうのミサキちゃんは、何となく優しい寂しい声で「私がみんなに、伝えるよ」と言った。

「でも、」

「あんた何回も言うの辛いでしょ、」

私の何十倍も辛いんだから。
俺が何も言えずに居ると、ミサキちゃんは「大丈夫?」と俺の心配をしてくれて、俺は思わず一方的に電話を切った。

そんな、俺は、電話でもわかる程、大丈夫じゃないのだろうか。





 


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