郷←仙 女に産まれたかった。 まさかそんな風に思う日が来るなんて。 今まで綺麗な顔だとか睫毛が長くて女みたいだと言われて嫌な思いしかしてこなかった。男らしく強くなりたいと、ずっと願っていたのに。それなのに今は全ての世の女達が憎いとすら思う。 一度考えてしまうとずるずると引きずってしまう。女に産まれたかった。今からでもいい。女になりたい。女として生きたい。 そうしたらきっと、郷田との子供だって産めたのに。 男同士というのは非生産的で、行為にも意味が感じられない。ただ気持ちいいからヤってるだけで、意味なんて何もない。 俺には内臓が足りない。 ふと目を閉じて想像する。 自分は女で、郷田との子を産んで、馬鹿じゃないのってぐらい幸せな未来。 幸せで幸せで涙が出そうなくらいの幸せな未来。 だけどどんなに毎日考えていたって、結局はただの妄想に過ぎない。けして現実には成り得ない。女にはなれない。 俺はただの妄想癖でしかない。 目を開けると途端に現実が突きつけられる。 鏡に写る、綺麗だと言われた顔。だけど内臓が足りない。一番欲しい内臓が俺には無い。 それでも、俺の妄想癖は恐ろしい程のものらしく、妄想にやられて脳みそや神経までおかしくなってしまったようだ。 そのせいで余計に現実という寂しさが際立って俺に襲いかかる。 ふと昨日電車の中で見た、腹痛に苦しみ生理なんて来なければいいのにと言っていた女子高生を思い出す。 どんな痛みだって耐えるから、その内臓を俺にくれればいいのに。 また頭の中で妄想が広がる。 腹を押さえてベッドへと潜り、小さくため息を吐いた。 俺は月に一度、ありもしない内臓が痛む。 |