中性的な仙道




はじめは、「綺麗な手だなぁ」から始まった。

箱の中の魔術師という名の通り、本当に魔法のようにその綺麗な指から繰り出されるタロットカード。
仙道はカードの絵柄を見せて、その意味を話すが、俺はただ綺麗な手に見とれていた。

(女の人みたいだ……)

そうぼんやり眺めていると、仙道は不思議そうに首を傾げた。

「山野バン」

綺麗な手からは想像もつかない低く落ち着いた声が俺の名前を呼ぶ。その違和感にはっとして、仙道の顔を見れば、少し目を細めて不満気な顔をしていた。

「どうした、ぼうっとして」

細められた仙道の目はとても綺麗な紫色で、まつげはとても長かった。

「なんでもないよ」

笑って見せれば、仙道はそうかいと呟いてさっきと同じようにカードを魔法みたいに消した。
そのまま仙道は俺に背を向けてナイトメアをいじり始める。
俺は相変わらずぼんやりと仙道の姿を見つめていた。

細い腰、きれいな白い肌、細い髪の毛、整った顔立ち、長い手足、仄かに香る香水のような匂い……。
綺麗に上げられた前髪を下ろせば、もっと女の人にみえるだろうに。
工具を取る時に見える仙道の横顔に、もったいないという気持ちになる。

前髪、下ろせばいいのに。

「何だいさっきから人の事じろじろと……用があるならはっきり言え」

俺の視線に気づいていたらしい仙道は、機嫌悪く睨みつけて来た。
さっきまでは何だか女の人にしか思えなかった仙道も、今はその低い声と悪い態度で、男に思える。

「……怒らない?」

少しどもりながらも聞くと、仙道は眉間にしわを寄せて「内容による」と答えた。そりゃそうだ。

「絶対怒るから言わない」

苦笑いを返すと、仙道はつまらなそうに「へぇ」とだけ呟き、俺の頬をその綺麗な指で抓った。

「痛い痛い痛い!!」

抓られた頬を抑えてしゃがみ込むと、上から仙道が小さくふっと鼻で笑う。

「まァ、別に何だっていいけどね」

興味なさげに呟いて、仙道はまたナイトメアをいじる作業に戻る。
抓られた頬はまだ痛かったけど、もう一度仙道をじっとよく見る。
全体を見れば男なのに、部分部分を見れば女の人にしか思えない。
段々と何が男っぽくて何が女の人っぽいのかがよくわからなくなってくる。

「……仙道ってさ、女の人っぽい、よね」

って思ってたんだけど……。
と、聞こえるか聞こえないかくらいの声でぼそぼそと呟けば、仙道は呆れたようにこっちへ振り向いた。

「……あー、そうそう。実は俺、女だったんだよ」

投げやりに返された言葉に、絶対に嘘だと分かってるのに、不思議と俺はドキドキとして、仙道が本当に女の人だったらいいのにと思ってしまった。


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