「ふっざけんなよ……!」

仙道は、思いっきり俺を睨みつけて、泣き出した。


俺は、ただショックだった。
俺と仙道は付き合っていて、それも結構な長い期間で。
いつもキスする時でもムードが何だかんだと言う仙道の事を俺なりにも考えて、ちゃんと初めてに相応しいタイミングだとか、結構いいムードだと思ったから、勇気を振り絞って押し倒したら、泣かれた。

嫌がられる事は多少なり覚悟していたが、まさか泣かれるなんて。せいぜい気持ち悪いだの何だの言われて蹴りを入れられる程度だろうと思っていたのに。
そんなに俺とヤるのは嫌なのか。
頭の中がどんどんと卑屈になっていき、あまりの事に俺も泣きそうになってくる。

「お前はそんなに俺がきらいか」

思わず睨み返すようにして言ってしまう。
俺が両手首を押さえつけているから顔も隠せず、ただぼろぼろと涙を流し続ける仙道は、俺の言葉に返事をするかのようにまた一段と睨みをきかせてくる。
そして、小さく口を開く。

「くやしい」

思いもしなかった言葉に、俺は思わず「はぁ?」と声を漏らす。
仙道は小さく舌打ちをした。

「郷田なんかに、俺が、こんな、」

ううぅ、と小さく唸って、本当に悔しそうに顔を歪めて、相変わらず涙を零している。
意味が分からない。

「別に、俺だって無理矢理犯す気はねぇよ……!お前が嫌がるなら、やめるし……」

「それがむかつくんだよ!!」

ぎゃいぎゃいと騒ぐ仙道が、足をばたつかせ始めたので思わず馬乗りになって押さえ込む。

「むかつくむかつくむかつく!!!」

完全に動けなくなった仙道は、一段と顔を歪ませ悪態をつきながらも大人しくなった。
はぁ、と一息ついて、仙道を見るとまだ俺を睨んでいた。

「……仙道、なにが悔しくて、なにがむかつくんだよ?」

「お前なんかに、ヤられるとか、俺が、負けたみたいで、最悪だ」

仙道はぼそぼそと言葉を零す。
俺はやはり意味が分からず首を傾げる。

「だから、無理矢理にはしないって言ってんだろ、お前の合意が……」

「その上から目線が一番むかつくんだよ!!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ仙道には全く色気というものが無くて、何となく俺の気持ちも萎えてくる。
はぁ、と小さくため息を付いて押さえつけていた仙道の腕を離し、上からも退いた。

「意味わかんねぇ」

素直な気持ちを口にすると、仙道は眉間にしわを寄せて不服だと言わんばかりの顔をする。
そしてそのまま暫く俺を睨みつけた後、あからさまなため息を吐き、ぼそぼそと小さな声で説明を始めた。

「なんか、女ってだけでヤられる側って決まっててむかつくし、どうせあんあん言わせられんのも女の方だし、男が本気だしたら女なんかすぐ犯れる、みたいな力関係もくやしいし、なんか、そういう郷田の方が上って決まってる感がすっげぇむかつく……」

そう言って膝を抱えて座る仙道は少し可愛かったが、相変わらず言いたい意味はよく分からなかった。

要するに、上ならいいのか?
俺は普段使わない脳みそまで使って、よく考える。
そして一つの考えにたどり着く。

「よし、わかった仙道」

俺なりに考えてはじき出した答えだ。
真っ直ぐに目を見て言えば、仙道も真っ直ぐに俺を見てくれる。

「騎乗位がいいんだな?」

「死ねッ!!」

途端に顔面にクッションが飛んでくる。
痛くは無いが、いきなり何なんだ。違うのか。
仙道は「お前の事だから、そーいう事言うかもしれないとは思ったけど」とまた違うクッションを投げてくる。
俺は余計に分からなくなる。
じゃあ、どういう事なんだ?

首を傾げて仙道を見れば、相変わらず膝を抱えて丸まるように小さく座っていた。
顔は反らされていたが、よく見れば若干頬が赤くなっている。
なんだ、騎乗位とか言ったから照れてるのか?いや、まさか仙道がその程度で顔を赤らめる筈がない。
やっぱり意味は分からないが、そんな仙道がたまらなく可愛く思えて、思わず紫色の頭を撫でる。

「別に、お前の気が向いたらでいい。俺は待ってるから」

出来るだけ優しい声で言い、ゆっくりと優しく頭を撫で続けると、抱えた膝に顔をうずめている仙道は、小さな声で「だからそれがむかつくんだって……」と呟いた。




 


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