寝る前に少しだけゲームをしようと思っていただけなのに、集中している間に時間は過ぎていたらしく、気づけば外は明るくなっていた。

ああ、完徹で仕事に行かなければならないなんて。
今日1日の事を考えると憂鬱で仕方ないけれど、明日は休日だと思うとまだ救いがある。
とりあえず朝ご飯を食べようとリビングに向かうと、置きっぱなしにしていたCCMがメール受信を知らせるランプを点滅させている事に気づいた。

開いて見ると仙道くんからのメールで、時間は昨日の夜10時21分……途端に申し訳なくなる。
内容も『今から行っていい?』と簡単な一行で、もしかしたら行く場所がなくて僕を頼ってくれたのかも知れない。
仙道くんは時々、行く場所が無いと言って僕の家に来て、一晩泊まっていく事があった。今回もそうだったのかも知れない。そう思うとつい焦ってしまい、今が早朝という事も忘れて電話をかける。
耳に当てたCCMからプルル……と音がする。しかし数秒としないうちにその音は途切れた。

『なに』

「え、あっ、えっと、仙道くん……!」

まさかワンコールで出るとは思っていなかった為、ついついどもってしまう。
ちらっと時計を見れば、時間は5時47分。起きていたのだろうか。
無意識的に「すいません」と声が零れる。

『……ゲームは楽しかったかい』

「えっ」

機嫌が悪いというよりは寂しげな弱々しい声で言われ、若干混乱気味の頭でどうにか考え出した「なんで、」という言葉をCCMへと零す。
仙道くんは黙っていて、返事はない。

しばらくぐるぐると頭の中で考えた後、まさかと思い玄関のドアを開くと、そこには膝を抱えて小さく座り込んでいる仙道くんが居た。

「おそい」

仙道くんが僕を睨みつけてそう言った2秒後にCCMからも同じ声が聞こえる。
とにかく驚き、馬鹿みたいに口を開けっ放しにしたまま立ち尽くしている僕に、仙道くんはため息をつき、CCMをポケットにしまった。

「ひ、一晩中ここに居たんですか」

「……だって、行くとこないしねぇ」

仙道くんは立ち上がり、服の埃をはたく。何故かその顔は少し安心したような嬉しそうな顔をしていて、僕にはまた理解できない。

「他のお友達の家とか……!こんな所に一人で居るなんて、危なっ!」

言葉の途中に、突然仙道くんに突き飛ばされる。
ダンッと思いっきり背中を打った。固い床は凄く痛い。
いきなり何するんですか!!と顔を上げて仙道くんを見れば、何故だか涙目で、倒れている僕に馬乗りになり、首もとに抱きつかれた。

「せ、仙道くん……?」

「俺が、他のやつん所泊まりに行って、あんたは嫌じゃないのかよ」

首もとに抱きつく仙道くんの体は、一晩外に居たせいか、とても冷たかった。
よく見れば肩も少し震えている。もしかしたら、仙道くんは仙道くんなりに、あそこで僕を待ち続けている間、凄く不安だったのかもしれない。
仙道くんが意外と寂しがり屋なのも、自惚れじゃなくても僕の事を好いてくれているのも、僕が一番知っているのに。
途端に凄く愛おしい気持ちになる。

「ごめんなさい、仙道くん」

ぎゅっと抱き返して、子供をあやすように背中をポン、ポン、と優しく叩いてあげる。すると、弱々しい声で「ガキじゃねぇぞ」と返ってくる。それでも僕はそのまま続けた。

しばらくすると小さな寝息が聞こえてきた。仙道くんも寝ていなかった分眠いのだろう。
本当に子供みたいだ、と考えた後、そういえばまだ中学生だったと思い出す。
まったく見た目ばっかり大きくなって、と微笑ましい気持ちになる。

少しずつ体温を取り戻していく仙道くんの体が、だんだんと心地よくなってきて、いつの間にか僕も瞼を落としていた。





はっと目を覚ませば玄関先で、さっきあった事を思い出し、横に目をやれば相変わらず仙道くんが眠っていて安心した。
ゆっくり起こさないように仙道くんの頭を撫でる。
その時ふと自分のCCMが目に入り、またメール受信を知らせるランプが点滅している事に気づく。
何だろうと開いてみれば、会社の上司からだった。
いつも通りのくどくどと長い嫌味くさい文章の中に『無断欠勤』の文字が見えて、時計を見れば既に今日が半分終わっていた。
思わず放心状態になる。
すると、横からクスクスと笑い声がして、仙道くんを見れば「大変だねぇ」とのんきに言われ、小さくちゅっとキスをされた。
それだけで今日は仕方ないかと思える僕も、つくづく仙道くんが好きなのだとよくわかった。


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