ピンポーン チャイムが鳴って、はいはいと玄関の扉を開くと、そこには仙道くんがにやりとした笑顔で立っていた。 「あんたペット飼いたいって言ってたよな」 仙道くんは、珍しく大きめな荷物を肩から斜めに下げていた。 運動部の学生なんかがよく持っているエナメルバッグは、何となく仙道くんには違和感があり、ぼんやりとそれを眺めながら「まぁ…」と適当な返事をしてしまう。 「だったら俺の事飼ってよ」 えっ、と思わず目を見開いて仙道くんを見れば、それはそれは楽しそうに微笑んでいた。 *** 「……家出ですか」 「いや別に」 嬉しそうにコンビニのプリンを頬張りながら、仙道くんは自分の荷物を整理する。 仙道くん、と名前を呼べば、相変わらずのにやりとした笑顔で名前好きに付けていーよ、と呟いた。 「と、とにかく、事情を詳しく説明して下さい……!」 いきなりペットとして飼えだなんて、流石に何か事情があるはずだ。家に居たくないとか、親と喧嘩しただとか……。 「別に。なんとなくだけど」 本当に理由なんてないのだろうと分かるくらい、仙道くんは面倒くさ気に眉をひそめた。 「あんたさ、俺をペットとして飼うなんて、どれだけの事か分かってる?俺を従えさせたいやつなんて、その辺ごろごろ居るんだからねえ」 だから、あんたは特別。 仙道くんは中学生とは思えない、妖艶という言葉が相応しいような笑顔を見せる。 従えさせるだなんて言うけれど、仙道くんの態度は完全に僕を見下していて、本当は従う気なんてない事がよく分かった。 それでも『特別』だなんて言われてしまうと、どうしようもなく頭の中が真っ白になる。 顔を赤くして口をぱくぱくとさせる僕を見て、仙道くんは嬉しそうに「ユジン、喉かわいたんだけど」と飲み物を要求する。 それで、黙って飲み物を用意しに行ってしまう僕も僕だ。 嬉しいやら情けないやら色々な感情が渦巻いて、ぐるぐると考えた結果、最終的にはちょっとしたいたずら心になった。 たしか、あった筈だと食器棚の奥をあさる。 「どうぞ、仙道くん」 「は」 プラスチック製の平たいお皿にオレンジジュースを入れたものを、仙道くんの前に置く。 意味の分かったらしい仙道くんは舌打ちをして、僕を睨みつける。 少し前の僕ならここで怯んで謝ってしまっていただろうが、今となっては睨まれるのももう慣れてしまった。 「悪趣味だねえ」 ペットとして飼えなんて言ってくる人に言われても……と苦笑いを返せば、仙道くんも少し笑った。 何となく、少し前の僕たちならこんな事は有り得なかっただろうと思うと、微笑ましい気持ちになる。 ふと目が合うと、やっぱり仙道くんはにやりと笑った。 「まあ、とりあえず、飼ってくれるって事でいいんだな」 そう言って仙道くんは僕の前にあった、コンビニのくじ引きの景品のアニメキャラクターの描かれたグラスを掴み、中に入っていたオレンジジュースを一気に飲み干す。 「ああっ!」 それは僕の分なのに!と言えば、仙道くんは楽しそうに笑って、平たいお皿を僕の方に差し出した。 「とりあえず世話になるよ」 ご主人様とでも呼べばいいかい?と馬鹿にしたように笑う仙道くんは、荷物を片付け終えたようだった。 その荷物はどう見ても数日分で、本当は僕の所に泊まりに来たかっただけなんだろうとよくわかる。 数日だけ。そう思うと少し、寂しい気もする。 「……『ダイキ』って名前の入った首輪買ってきましょうか?」 仙道くんは笑顔で僕の背中に蹴りを入れた。 |