金持ちジュンさん(21歳・大学生)とお嬢様櫂くん♀(10歳・小学4年生)
あと一般的な高校生の三和






自分で言うのもなんだけど、僕は女の子によくモテる。
可愛い女の子達は、それはそれは僕の気を引こうと必死で、甲斐甲斐しく僕の世話を焼こうとする。
勿論僕も、そうされて気分は悪くなかった。
ただ世話を焼いてくれるような女の子が好みの女性かと言われれば、全く好みじゃないというだけ。





お上品に、スプーンを使って少量のパスタがフォークに巻き取られていく。
小さな手にその食器は少し大きかったが、それでも綺麗だと思わせるその食べ方から育ちの良さがよく分かる。
普通に座れば机から遠くなって食べにくいであろう子どもの為に用意された少し高めのクッションを敷いて座るその子どもは、そんじょそこらの女の子たちよりも僕の好みの女性だった。

「櫂、おいしい?」

「それなりに」

短い返事。会話は全然続かないが、彼女が安いファミレスのミートソーススパゲティ380円を口に運んで咀嚼して飲み込むという様子を見ていると、さほど暇ではない。
黒のボレロに真っ白のワンピースを着たお上品な女の子。普通の子どもなら白い服を着てミートソースを食べさせるだなんて心配しかないが、櫂は全くその心配がない。

「しかし三和は遅いね」

「高校生は忙しいらしい」

食べ終わったらしい櫂は、これまたお上品に口を拭う。
オレンジジュースを飲む顔が、何だかもの足りなそうに見えて、デザート食べる?と聞くが、いらないと返される。

「やっぱりこういうとこでの食事は好きじゃない?」

「そうでもない。三和はだいたいここに連れてくるしな」

「ふうん」

コーヒーを一口飲んで、僕はあんまりこういうとこの味は好きじゃないなぁと思いながら、メニューを見る。
どれもあまり美味しそうには見えない。

「お前はこういうところは似合わないな」

櫂は僕を見て目を細める。その顔がすごく僕の好みの女性の顔で、どうも小学生には思えない雰囲気を持っている。
相変わらずだなぁ。


櫂を初めて見たのは、大学の友人のピアノの発表会を見に行った時だった。
その発表会はわりと凄い人たちの集まりだったらしく、僕の友人でもかなり若い方で、殆どが中年や老人だった。
そんな僕よりも年上の人達がピアノを弾いている中、ひとりだけ居た小学生。それが櫂だった。
綺麗なドレスを着て、堂々と真っ直ぐ歩いて行き、一度礼をして、ピアノの前に座る。
そして、集中するようにひと息ついてから、子どもだとは思えないような、とても綺麗で力強い音を会場に響かせた。

そこで櫂に興味を持ち、何となく顔と名前を覚えていた。また発表会で見かけたり何か機会があれば声でもかけてみようと思いつつ、ただ日々が過ぎて行った。
そして、少し記憶が薄れ始めた頃に、櫂との再会を果たした。

少し大きめのカードショップでの大会に、彼女は居た。相変わらずに堂々としていて、カードを扱う綺麗なちいさな手は自信に溢れていて、それでいてどこか品性のあるファイト。僕はいつの間にか見とれていた。
僕とは違うトーナメントに出場していた彼女はどうやら見事に優勝したらしい。
同じく優勝した僕と同じように、優勝賞品を受け取っていた。



「フリーいいかな?」

トーナメントが終わり、客がまばらになり始めた頃に声をかけると、彼女は「ああ」と頷いた。

「君、こないだピアノ弾いてたよね、発表会で」

「なんで知ってる」

カードをシャッフルする手を止めて、じとりと変質者を見るように睨みつけられる。
やはり見るからにどこぞのお嬢様と分かる雰囲気を持ったこの子はそういう輩に何か絡まれた事があるのだろうか。
思わず少し笑ってしまう。

「友人も弾いてたんだよ。そこで君を見かけた」

「……そうか」

素っ気ない返事だが、何となく悪い気はしない。むしろあまり喋り過ぎる子は好きじゃない。
この子、面白いなあなんて考えていたら、相手は既に準備が整ったらしく、僕を待っている。

「「スタンドアップ」」

始まったファイトでその子は楽しそうにカードを扱い、結果僕は負けてしまった。

「君強いね」

「お前もな」

そこから意気投合して、その子の保護者が迎えに来るまで何度もファイトを続け、その日以降も何となくファイトする為に会うようになった。



「わるい!遅れた!」

ぼんやりと櫂と初めて会った時の事を思い出していると、突然聞き慣れた大きな声が聞こえて、はっと顔を上げる。
そこには三和が、見るからに悪いとは思っていないであろう笑顔で立っていた。
へらりと笑いながら、櫂の横の席に座る。

「遅かったね」

「時間割自分で決める大学生や早くに授業が終わる小学生とは違うんだよ」

部活もあるし!とわざとらしくため息をついて見せる三和に、櫂は興味なさげに「新しい期間限定のパフェ出たみたいだぞ」と伝える。
三和は「まじで!」と嬉しそうにメニューを見始める。どっちが子どもだか分からない。
見ていて微笑ましいけれど、少しだけ羨ましいと思う。

「ほんと兄妹みたいだよね」

三和は、櫂家の隣の家に住むおにーさんで、2人の家は家族ぐるみでの付き合いがあり、過保護な両親にあまり外に出して貰えない櫂が外に出る為の一番の手段が三和だという。
そうやって櫂が産まれた時からずっと一緒に育ってきたらしく、心なしか見た目も少し似ていて、本当に兄妹だと言われれば信じてしまうくらいで、むしろカードショップに櫂をむかえに来た時は、本当の兄妹だと思っていた。
そんな三和に何故だか絶対の信頼を置く櫂の両親は、三和が連れていってくれるとだけ言葉を添えれば、「タイシくんが一緒なら安心だ」なんて言って笑顔で櫂を送り出すらしい。
そのおかげでカードショップにファイトしに行ったり、こうして僕と会うにも、大体は三和の付き添いが必要で、大変面倒くさい。
だから最近は今日のように帰りにだけ三和に迎えに来て貰い、さも三和と遊んでいたという風に櫂を家まで送り届けて貰うという事が多くなってきた。
三和はメニューから顔を上げて、僕と櫂を交互に見る。

「俺と櫂が兄妹ならお前らは親子だろ」

「えぇ、さすがにそれは言い過ぎだよ」

だってそれじゃあ僕が櫂と同じ歳ぐらいで子ども作った事になるよ?
と何の気なしに言えば、三和は顔をひきつらせて「お前らが言うと生々しくて笑えねーよ」と呟く。

「やだな、さすがに手は出してないよ」

「小学生と付き合ってる時点で世間から見ればアウトだろ」

そう言いながら店員を呼び出すボタンを押す。
三和は「別に悪いとは言わねえけどほんとびっくりするよお前ら」とぼそぼそ言葉をこぼしていく。

「まじで変な事にならないよう気をつけろよ。関係は?って聞かれたら兄妹もしくはイトコって答えるんだぞ、わかったな?」

三和は櫂の両親の事を過保護過ぎて怖いと言うが、三和も大概な気がする。
店員が注文を聞きに来て、三和は何だか馬鹿みたいなカタカナを並べたパフェを嬉しそうに注文していた。
それを見て櫂は少し悩んでから「やっぱりアイス食べていいか」と僕を見る。いいよと言えば可愛らしく「バニラアイス」と店員に伝えた。

「ふふ、可愛いですね、妹さんですか?」

女性店員は、注文を手元の機械に打ち込みながら三和に話しかける。
三和は、一瞬困ったように僕を見たが、次の瞬間にはいつもの人当たりのいい笑顔を店員に向けていた。

「そうなんすよー!ちょっとさっきまで親戚の集まりがあって、あ、こいつはイトコなんですけど、こいつに飯奢って貰おうと思って!」

これが見本だと言わんばかりにどんどんそれらしい嘘を並べる三和に、こいつ怖いなぁなんて思う。こんなに息をするように嘘をつけるなんて。通りで世渡りが上手いわけだ。
三和の嘘を聞きながら、僕も適当に話を合わせて相槌を打つ。

「なっ櫂?」

そうやって三和が、分かったかと言わんばかりに櫂に同意を求めれば、櫂は不機嫌に眉間にシワを寄せていた。

「ジュンはイトコじゃなくて恋人だ」

ムスッと言い放たれた言葉に、三和は頭を押さえて「あーあ」と落胆した顔を僕に向ける。
櫂も、真っ直ぐに僕を見ている。
それがどうしても嬉しくなって、思わず笑みが零れる。

「そうだよね。ふふ、櫂は僕のかわいい恋人だから」

そう言って店員を見れば、店員は凄く微笑ましいものを見たという顔をして「本当に可愛いですね」と呟き、キッチンに注文を伝えに戻っていった。

「お前ら本当にいい加減にしろよ……」

三和は疲れたように机に顔を伏せる。
櫂は少しだけ満足げだった。

「今のはイトコに恋する可愛い小学生とそれに合わせてあげてる優しいイトコのおにーさんって微笑ましい感じに受け取って貰えたからいいけど、本当にやめろよ、知り合いからロリコン犯罪者出るとか勘弁してくれ」

しかも間取り持ってたとかバレたら俺が櫂の両親に殺されるから!なんて三和は必死に言う。

「だから手は出してないってば。ロリコンじゃないし」

ただ、世界で一番僕好みな女性が櫂であって、そこに偶然歳の差があっただけ。
それでも三和はものすごく心配、というより僕に信用が無いらしい。

「櫂、何か変な事されたらすぐ俺に言うんだぞ、わかったな?」

「変な事?」

「そう、ジュンにえっちぃ事されたらすぐに言え」

櫂の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、割と切実といった表情で三和は言う。
本当に失礼なやつだなぁと思いつつ、それよりも何か考え込んでいる櫂が気になった。

「櫂?」

名前を呼べば、櫂は閃いたように三和の方を向き、何時もながらの無表情で言葉を零す。

「ちゅーした」

言い方が可愛いなぁと思う。
しかも『えっちぃ事』にキスが含まれるなんて、さすが小学生。
なんて微笑ましく櫂を見ていると、その横から信じられないと言わんばかりの冷たい引いたような視線が突き刺さる。

「……キスなんて挨拶みたいなものだろう」

「お前なぁ……。櫂、嫌だったら嫌って言わなきゃだぞ」

本当に性犯罪者を見るような目で僕を見る三和は、何となく処女が好きなんだろうという確信が持てる。まあ高校生にはそういう子は多いだろう。産まれた時から知っている妹のような子の処女を守るだなんて、お前も大概なんじゃないかと思うが、面倒だから口には出さない。まだ初潮も迎えていない子の初めてを心配するなんて、こいつも大変だなぁと思う。
それよりもまた考え込んでしまった櫂に、嫌な予感がする。これ以上ロリコンだとか罵られるのは御免だから、言うなよ、櫂。

「口の中舐められるのはあまり好きじゃないな」

「手ェ出してんじゃねえか!!!」

三和は周りを配慮してか少しボリュームは小さめで、僕を怒鳴りつけた。
面倒な事になった。

「別にセックスした訳じゃないだろう」

「小学生相手にベロチューはダメだろ!!!」

小声とはいえファミレスで何て話をしているんだろうとは思う。
話の殆どが分からないであろう櫂は暇そうに窓の外を眺めていた。

「愛してるんだから年齢とかは関係ないと思うんだけどなぁ」

「いや、せめて高校生までは待てよ」

待つとか待たないとかはよく分からないけれど、ディープキスだって、しようと思ってしたんじゃなくて、キスしてたら、思わずそうなっちゃっただけで、しちゃった時は僕も正直驚いたし、あと、キスし終わった後の櫂の顔が凄い可愛かったからまたしたいなぁって思っちゃうじゃない?
恋人ってそういうものじゃないかな。三和は年齢の概念にとらわれ過ぎてるだけだよ。

「第一、君の言い方だとセックスが最終目標みたいだけど、僕らの最終目標は結婚だからね」

自信を持ってそう言うと、三和は呆れたように「金持ちんとこの子はみんなバカなのか」と呟いた。
そしてそのタイミングでパフェとアイスが届く。
店員は今まで何の会話をしていたかも知らずに相変わらずに微笑ましいものを見るような顔をしていた。

「櫂は僕と結婚してくれる?」

「する」

軽々と交わされる約束に、三和はため息をつきながらパフェを口に運ぶ。
チョコレートやら何やらが大量に乗ったパフェは、全く美味しそうには見えないが、こんなもので僕と櫂のデートの手伝いをしてくれるのだから正直に三和には感謝している。
ただちょっとロリコン扱いされるのが腑に落ちないだけで。

「もう面倒だから来週末辺り櫂のご両親に挨拶に行こうかな」

「やめとけよバカ!!」

三和は焦ったように言う。
それが面白くて笑っていると、櫂はアイスを食べながらつまらなそうに「お前ら楽しそうだな」と呟いた。







すいませんでした。

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