※がっつりじゃないけどえろいの注意






別に一回会ったぐらいで一目惚れしたとか、そんなんじゃあない。
だけど、ファイトしてボロックソにやられて、めちゃくちゃ強くて格好良くて、正直憧れみたいな気持ちはあったと思う。




今まで生きてきて女は少し苦手だった。
友達同士でキャッキャしてると思ったら、裏ではわりとネチネチしているし、全体的にドロドロとしていて、何か怖い。
もちろん女にもわりとサバサバしたやつも居るし、コーリンや番長は俺の知る中じゃあかなりサバサバしてる方だと思うが、喧嘩や言い合いをしてる時はやっぱり女なんだなぁと思う。
男とは違う喧嘩の仕方。やっぱり女は男より全然怖い。


そんな中、あいつに出会った。
向こうのチームで唯一の女。
背の高い、スカートの短い、偉そうな女。
はじめは、俺の相手は女かとがっかりした。
しかし、後江で一番強いのはそいつだという。
素直に、女なのにすげえ、と思った。

戦ってみて、それ以上にすげえと感動した。心から格好いいと思った。
女とか男とかもうどうでもいい。あいつは『漢』だと、そう思えるくらい格好良くて、俺の知ってる女のイメージをぶち壊した。
女にも、熱い心を持った、すげえやつは居るんだ。
普通ならば女には似合わないようなドラゴン達も、あいつにはとてもしっくりときていた。
あいつはきっと、ネチネチもドロドロもしていないんだと、勝手な印象だがそう思えた。
女でも仲良くなりたいと思う。
むしろ、俺の中でのそいつは『女』という認識ではないのかも知れない。

感動して「あいつ女なのにすげーな」と呟けば、コーリンは顔をしかめて「あいつは殆ど男みたいなもんよ」と言った。

櫂トシキ。覚えたぜ。
次は絶対に勝ってやる!
隣の金髪と話しているのを遠くから見ながら、心に誓った。





後江との試合から、数日が経った。
俺はカードショップに行った後、ショップの近所をうろうろと歩き回っていた。
アイチに「櫂トシキとファイトしたい」と言えば、アイチは苦笑いで「櫂くんなら公園とかで寝てるんじゃないかなぁ」と返した。よく公園で昼寝をしているらしい。

「櫂くん、女の子なんだから外で寝るの危ないよって言っても、聞いてくれないんだよね」

アイチは眉を下げてそう言うが、あいつなら別に平気なんじゃね?と思い、適当に「へぇ」とだけ返した。

どうせ暇だし、適当に歩き回り櫂トシキを探す。
アイチの言っていたベンチらしき場所には居なかった。どこか他の所に居るのだろうか。
デッキを握りしめて、ベンチに座る。
すると、背後から、ちいさな鈴の音が聞こえた。
振り向けば、猫が「にゃあ」と鳴いた。

「お前確か、カードショップに居た……」

猫って、こんな所まで来るんだな。
ちょっと関心していると、猫はゆっくりと歩き始めた。

「あっ待てよ」

猫は少し道を歩いたと思えば、茂みの中へと入って行く。
何故だか追いかけなければと思い、俺も茂みの間を頑張って通る。
猫は軽々と木々をくぐっていき、追いつけない。
俺がやっと茂みを抜けたと思えば、猫は既に居なかった。

「なんだここ」

木も何も生えていない、ちょっとした空間。
周りを見わたせば、少し先に倉庫らしきものがふたつあった。恐らくそこに清掃員用の用具があり、ここも清掃員の為の通路のようなものなんだろう。
何となく穴場を見つけたような気持ちになる。
こんな所あったんだな、と倉庫に近づく。
すると、とても小さいが、人の声が聞こえた気がした。
誰か居るのだろうか。
少しずつ近づくと、だんだんはっきりとしてきて、それが何の声だか分かってくる。

「んっ、うぅ……っふ……」

女の声。そして男のものであろう荒い息。
ちゅっ、くちゅっという嫌な水音。
おい、まさか、こんな所で……?

なんてやつらだ、と思いながらも足が動かない。どうしても聞き耳を立ててしまう。
あー最悪だ。なんでこんな所でやってんだよ。誰だよクソッ。女が苦手だからと言って、そういう事に興味がないわけではけしてない。
早くここから立ち去らなければ。そう思った瞬間、男の声がはっきりと聞こえた。

「かい、すげぇ……っいいぜ」

かい。
名前にも、声にも覚えがあった。
まさか。

ドキドキしながら、倉庫の裏を覗きこむ。
すると、見たことのある金髪が、座っていた。
レンガ造りの台のようになっている所に腰掛けている金髪は、青色の制服の中にピンク色のパーカーを着ていて、どう考えても後江のヴァンガード部の部長だった。
ここからは、よく見えないが、そいつの足もとにも、人が居る。

音を立てないように、ゆっくりとそいつらが見える位置へと移動する。
正直、もう1人が誰なのかは、分かっている。だけど信じたくない。どうか違ってほしい。ああクソ心臓がうるさい。

決意して覗けば、やはり、想像した通りの人物がそこに居た。
茶色の髪の、女。
櫂トシキが、金髪の足の間に居た。

「ちゅっ……ぅんっ……」

櫂トシキは、男のあれに、舌を這わせていた。
嘘だろう。
男のあれを舐めたり、先を吸ったり、挙げ句口に含んで頭を動かし始める。
目が離せない。

顔を赤らめて、涙目で、一生懸命に男のものを咥えている櫂トシキは、どこか幸せそうで、その顔は、女だった。
どう考えても、女でしかなかった。

どうしていいかわからず、走って家に帰る。
櫂トシキのあの顔が、頭から離れない。


結局、俺は夢に見る程に、ずっと、櫂トシキの事を考えていた。
ただ夢で違ったのは、相手があの金髪ではなく、俺だったという事。






翌日の夕方、アイチに誘われたがカードショップに行けばあいつらが居るかも知れないと思うと足が進まず、用事があると嘘をついてまっすぐ家に帰った。
やる事もなく、何をしようにも昨日の櫂トシキの顔が頭から離れないから、ただ自室でだらだらとしていた。もちろん今日は授業もいつも以上に集中出来なかった。

そんな時に、知らない番号から電話がかかってきた。
何の気なしに電話に出れば、やけに明るい声がした。

『よっ』

声で、誰だかわかる。最悪じゃねぇか。

「なんで番号……」

『あっ誰かすぐわかった?すげえな。番号はアイチに聞いた。それっぽい理由つけたら普通に教えてくれたぜ?』

クソッ、アイチめ。
なんでこのタイミングで後江の部長が俺に連絡してくるんだ。最悪でしかない。
今、二番目に会いたくない人間。

『そう怒るなよー。今日キャピタル来るかと思って待ってたけどお前来なかったからさぁ』

「……何の用すか」

どうせ、こないだの試合とか、ファイトの話なんだろう。
そう思ったのに。

『昨日見てただろ』

え?
一気に、体温が下がる。
昨日って……なんでバレてんだ。

『お前、俺が気づいてるってわかんねえくらい櫂の事見てたもんな』

「え……」

『お前童貞だろ、雌の顔してる櫂見て興奮した?』

少し馬鹿にするように言われるが、そんな事に構っていられないくらい頭が混乱している。
なのに雌の顔という響きが頭にこびりついて離れない。嫌な汗が止まらない。

『俺が言いたい事分かるか』

「……すいません」

『見た事には怒ってねえよ!あんな所でやる俺らが悪いし。あっ安心しろよ櫂はお前に気付いてないぜ』

「…………」

『ただ、自分の彼女ズリネタにされんのはすげえ嫌って話。それだけ』

そいつは明るい声で言い、俺の言葉を何も待たずに「昨日の事は誰にも言うなよー」とだけ吐き捨てて、電話を切った。


通話時間を表示する携帯を、思いっきりベッドに叩きつける。
なんで、バレてんだよ。
自室のごみ箱の中に積もった、ぐちゃぐちゃのティッシュを睨みつけた。







石田少年の初恋。

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