※気持ち悪い話








最近、学校に来ると、櫂の机の中にプレゼントが入っている。

綺麗にラッピングされたそれには、日常で使うペンだとか、ハンカチだとか、よく分からないプレゼントが入れられていた。
最初は、お前の事好きな女子からのプレゼントなんじゃねえの?だなんて笑っていたが、ある日のプレゼントが下着だった時から、少し、やばいんじゃないかと思い始めた。
綺麗にラッピングされた、櫂が、持っているのと、同じ下着。

体育の時の着替えに見たんじゃね?と思ったが、それなら相手は女の子じゃなくて男という事になる。
別に同性愛を差別するわけじゃない。だけど、その可能性に思わず背筋が凍る。
櫂も不安気に顔を歪めて、きもちわるい、と呟いた。


そして、また数日して嫌な事実が分かった。
櫂は意外と物をよくなくす。そのせいで、たまたまかと思っていたが、どうやらそうじゃないらしい。
机の中に入っているプレゼントと、入れ替わるように、櫂のものが消えている。
赤のボールペンがプレゼントされれば数日以内に櫂の使っていたボールペンは消え、ハンカチをプレゼントされれば、ハンカチが一枚消える。勿論、下着も同じ。
いつどういうタイミングでなくなるのかは分からないが、完全に消えてしまっているらしい。



「なんなんだ、一体……」

顔を青ざめさせた櫂は、弱々しく机に伏せて、呟いた。
俺は無言で櫂の横に立ち、何と声をかけようかと必死に考える。

今日は、机の中にプレゼントが入っていなかった。
毎日、学校に着いた時に気持ち悪いプレゼントを見ることから始まる1日が、今日はなかったのだ。
本当なら、よかったと安心するべきなのかも知れないが、得体の知れない恐怖感を毎日味わってきて、急にそれが止まるという事が、何かとんでもない事の前触れにしか思えない。
ただただ気持ち悪さと不安を感じる。

これから何かが起こる。
証拠も何もないが、ただ何となくそれは確実だと思えて、絶対に櫂を1人にしてはいけないとぐるぐると胸に渦巻く不安感が警告してくる。
わかってる。櫂を1人には絶対にしない。

「櫂、今日お前んとこ泊まるから。嫌かも知んないけど、絶対学校でも俺から離れんなよ、絶対1人になるなよ」

肩を掴み、言い聞かせるようにそう言えば、普段なら絶対に嫌がるだろうに、櫂は小さく弱々しく頷いた。これは相当参っているらしい。



結局、学校では何も起こらなかった。
放課後になり、すぐにでも帰った方がいいかも知れないと思ったが、できるだけ信用できる人の多い所に居ようとキャピタルへと向かう。
キャピタルの閉店ギリギリまで居て、あとは夜道は危ないし、店長にそれとなく訳を話して櫂の家まで送って貰おう。
悔しいけど、きっと俺だけじゃあ何も出来ないから、大人の力を借りた方が絶対にいい。

一番安全であろう予定を考えながら、気晴らしにファイトでもしようと櫂の向かいの席に座る。
すると櫂もそれが分かったのか、鞄からいつものデッキケースを取り出す。
ファーストヴァンガードだけを置き、残りをシャッフルするが、櫂はやはり弱々しく、いつもよりもたもたとしたシャッフルをする。
そしていつもの櫂なら有り得ないが、シャッフルしていたカードが引っかかり、デッキの半分くらいを床にぶちまけた。
櫂本人も驚いたらしく、ぽかんとした顔で散らばったカードを見ている。

「わっ、櫂くん大丈夫?……顔色わるいし、体調わるい?」

近くに居たアイチが気づき、カードを拾ってくれる。
それにはっとしたように櫂もカードを拾い始める。

「櫂、お前ほんと大丈夫かよ」

カードを拾いながら小声で聞くと、櫂は焦ったようにすまないと呟いた。
黙々と拾い、カードの向きを揃える。
やはり俺と櫂は何を言っていいか分からず、ただ沈黙が続く。
そんな中、事態を知らないアイチが口を開いた。

「あれっ、櫂くんプロキシしてるの?珍しいね」

はいっと渡された束の一番上。確かにスリーブとカードの間に紙が挟まっていた。
アイチはカードの束を櫂に返すと、丁度のタイミングでカムイに呼ばれ「無理しないでね」と優しく微笑んで行ってしまった。
櫂は返事もせずに束の一番上を見ている。
櫂は、基本的にプロキシはしない。

物凄く嫌な予感がする。これは、やばいんじゃないか。
櫂は一層顔を青くして、俺の袖を掴んだ。

「このカード、俺のじゃ、ない」

紙の後ろに見えるカードは、確かに櫂が使っているのは見たことがないカードで、しかもそれなりにレアなカードだった。

「デッキ、いじられた、ってことか……?」

櫂は、基本的にデッキを持ち歩くから、そんなタイミングは無かった筈だ。
とりあえず50枚のデッキ全てを見てみれば、さっきのカードが三枚入っていた。
全部確かめると、その三枚のかわりに無くなっているのはどれもストレージにあるような普通のカードばかりだった。
見慣れない三枚のうちの一つに、折り畳まれた紙が挟まっている。
それを青い青い顔でじっと見つめて、恐る恐るスリーブから紙を取り出す。
櫂の手は震えていた。

「手紙、か……?」

「……」

今まではプレゼントだけが置いてあったから、その贈り主に関する事は何一つ分からなかった。
それが、今回手紙を添えてきた。

櫂は震える手で紙を持ったまま紙を開こうとせず、青ざめた顔と死んだ目で口を開いた。

「……何日か前、家で、カードのカタログを見ていたんだ、ひとりで」

ぽつぽつと呟かれる言葉を、黙って聞く。
櫂の視線はカードに向いていた。

「それで、欲しいカードがあったが、安いカードじゃないから、また今度金に余裕が出来たら買おうと思って、必要な『三枚』とだけ書いた付箋を、貼っておいたんだ……」

途端に櫂の顔が極端に歪む。
櫂が言っている意味を理解して冷や汗が止まらない。言葉が出ない。

「それだけで、俺はこれが欲しいだなんて、誰にも言ってないのに、なぜ、これを」

今にも泣きそうな櫂を、思わず抱きしめる。やばい、なんてもんじゃない。
俺達が考えているより事態は深刻で、きっと、俺一人じゃあどうにもできないような事で、警察とか、そういうレベルの事なんじゃないか。

櫂、少なくともそいつ、昨日お前んち入ってんじゃねえか。

震えながら俺の肩に顔を埋める櫂の手から、あの紙を抜き取る。
櫂はもうまともに呼吸も出来ていないようで、苦しそうに肩を上下させている。
櫂に見えないように恐る恐る紙切れを開いて見れば、そこには4Hぐらいの鉛筆で書いたような薄い色で、それなのに紙がへこむ程の凄まじい筆圧で、気の弱そうな小さな文字が書いてあった。


『一番のファンです。』


あまりの気持ち悪さに吐き気がする。
とりあえず櫂を落ち着かせなければと背中をゆっくりとさすり、できるだけ優しく抱きしめる。

まわりの客は男同士が抱き合ってるという異様な光景にざわざわとしはじめた。
みんなが俺と櫂を見る。
もしかしたら、この中に、あいつが居るんじゃないか。
一度そう考えてしまうと、まわりの誰もが怪しく見えてくる。

「何かあったの?」

異常なざわつきにねーちゃんが声をかけてくれる。
そして、櫂の様子のおかしさを見て、眉を潜めた。

「櫂、どうしたの」

真っ直ぐに俺を見て、聞いてくる。
流石に、正直に答えるわけにもいかない。

「……わりぃ、こいつ、過呼吸持ちなんだよ」

わりと苦しい言い訳だが、ねーちゃんは納得してくれたようで、心配そうに何か出来る事はあるかと聞いてくれる。
アイチやカムイも心配そうに櫂の名前を呟く。

「いや、ちょっと落ち着いてきたみたいだし、今日はこいつ連れてもう帰るわ」

へらりと笑ってごまかせば、ねーちゃんがデッキを片付けるのを手伝ってくれて、櫂を支えながら店を出る。
まだ、外は明るい。

「……櫂、しばらく俺ん家泊まれ」

櫂は俺の服をぐっと握った。






続くかもしれない。

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