「なー櫂、せっかくだし初詣くらい行かねー?」

だらだらと櫂の家で過ごす新年1日目は、楽しいし落ち着くけど、全く正月らしくはなかった。
いつもと同じようにファイトして飯食ってだらだらするだけで、飯も特に変わったものを食べる訳じゃない。
別に悪くはないけど、なんか、せっかく2人での正月なんだから、何かそれっぽい事しようぜ?

「どうせ人で溢れてて行っても疲れるだけだろう」

「いや、それでこそ新年!って感じすんじゃんか」

今はもう昼の2時も過ぎたと言うのに、櫂は寝癖もなおさずベッドに寝転びだらだらとくつろいでいる。
今の櫂をアイチが見たら、結構がっかりするんじゃないかと思う。まあ、外ではこんなの有り得ないんだろうけど。
そんなけ俺の前では楽で居てくれるって事だよな?
櫂を見れば、布団を被って目を瞑り、完全に寝る体勢だった。

「なに、寝んの?」

「ねむい」

えーやだせっかくなのに寝正月かよ勿体ねー。
いくら何でも緩すぎだろう。

「なあ櫂、まじで初詣ぐらい……櫂?」

反応のない櫂を見ればやっぱり目を閉じていて、どうやら本気で寝るらしい。
何回か名前を呼んだが、返事は返ってこない。くそ。

「櫂ー?」

寝てる櫂に近づき、布団の外に出ている櫂の左手を取る。

「俺寂しいんだけど」

指が細いし長い櫂の手は、とても綺麗だと思う。
手を握ったり撫でたり、恋人繋ぎのように組んでみたりして、いじりたおす。
そして、薬指をぎゅっと握った時、不機嫌な声が聞こえた。

「……何してるんだ」

「んー指のサイズ調べてる」

やっぱ寝たふりかよと思いつつ、手を触るのを止めない。
櫂は閉じたままだった目を少しだけ開ける。

「……俺は指輪つけるの好きじゃない」

「誰が指輪やるって言ったよ」

ゲラゲラ笑いながら言えば、櫂は再び目を閉じて寝返りをうち、壁の方へ向いてしまう。当然握っていた手も振り払われる。

「なに、櫂俺から指輪貰いたいの?」

しかも左手薬指の!
笑いながら言ってみるが、櫂は拗ねたのか全く返事を返してくれない。

「あんなえげつない程人の所有物だって主張するようなもん、貰ってくれんの?」

声のトーンを落とし、わりと真面目に言ってみる。
すると、櫂は少しだけ体を動かして、こちらをじいっと見つめる。
相変わらず何も言わずにただただじいっと俺を見つめる。
なあ、その反応ってつまりさあ、

「……ッ櫂!!俺今年はめちゃくちゃ頑張ってバイトするから!!!」

「……ああ」

嬉しくなってそう言えば、櫂は満足げな返事と共に、また寝る体勢へと戻っていった。

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