やれるだけのことはやったつもりだった。
僕を殺すことがいかに効率のよい打開策かの説明をわかりやすく教えたし、見せたくなかった本当の姿も見せて彼の罪の無さを身をもって伝えた。
でも彼はふるふると首を振ってあまつさえ僕を抱きしめたのだ。異形の僕を、それが当然であるかのように。
やめてくれと叫びたかった。彼が愛しくてたまらなくなる。あまりにも心地よい安らぎに溺れていたせいで感覚が狂ってしまう。

「殺してよ」

再び人間の姿に戻っても彼は何も言わずに僕の髪をすく。それがすべての答えだった。彼は僕を殺さない。
彼の背に腕を回して縋るように声を絞り出す。

「殺してください」

抱きしめて、そのままゆっくり爪をたてた。この痛みを憎しみに変えてくれたならどんなによかったか。
けれど慈悲深い僕のマリアは、ただ一定のリズムで僕をなでるだけだった。

「殺さないよ」

消えそうな、けれどはっきりとした声だった。

「僕はお前を覚えていたい。
これは僕のエゴなんだよ、綾時」

肩のシャツが湿る感覚がした。ごめんなと静かに泣く彼の涙を止める権利すらもはや無い。泣かないでと言ったところで果たして何の意味があるというのか。彼が泣くのを止めたところで、神が僕らに痛みを与えるのを止めるわけではない。結局僕は何もできない。
僕は世界で一番の親不孝者だ。

「お前と」

かかる吐息に彼を感じる。小さく嗚咽を漏らす姿から、彼もまた僕に縋りついていると知る。

「また一つになれたらいいのにな」

子が母の胎内に戻ることは叶わない。それは当然の摂理。下に落ちる水が上に登ることはないように、枯れた花に口づけても再び咲き誇ることはないように、願うだけ無駄なものだ。
でも彼は願った。願わない僕の変わりとでも言うように願う彼を見て、ぼろりと涙がこぼれ出た。
彼の中へ還りたい。彼の願いが叶えばいい。

「もしお前を殺したら、僕は僕を殺してやる」
「それじゃあ意味がないよ」
「1人になんかしてやらない」
「ありがとう。でも、僕らの行き先は違う」

死を持ってすら分かたれる。神は僕らが嫌いらしい。
静かに静かに、僕らは二人で泣いていた。
少年の青で満たされた箱庭で、共にありたいと泣いた。

慈愛に満ちた僕のマリア。彼はどこまでも僕を愛してくれた。僕はその愛を吸って生きていた。
きっといつか、その果てのない愛で誰かのメシアになるだろうから、今は僕だけの慈母であることを願う。
どうぞ、あなたの愛を僕だけに。





(共に死にたいと泣いた)

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