むき出しの皮膚に水滴がぶつかる。

ご機嫌斜めの大空が、鬱憤を吐き出すようにポツポツと雨を降らせ始めた。
土砂降りではない。けれど直接あたると不快に湿る程度に降ってくる雨は、体育の授業の中断を余儀なくする。
教師の号令もまたず、雨を嫌がる生徒たちはやれ急げと軒下へ駆け出していった。

僕も、と綾時も判断したが時すでに遅し。
広い運動場にある唯一の非難場所は、逃げ足の早い勝者たちによってすでに占拠されていた。溢れた敗者たちはおとなしく雨の洗練を体に染み込ませるほかない。
綾時は中途半端な悪天候の下に晒されたまま困り果てた。
勝者の1人、順平がドンマイと勝ち誇った笑みを見せながら軒下から声をかける。その様子に少しだけ悔しさを滲ませながら、おとなしく止むのを待つしかなった。肌に冷たいものが当たり続ける。
少し濡れるだけ、すぐ乾く、と気休めの言葉を自分にかける。水も滴るなんとやら。いや、周りにいるのは男子しかいない。魅了してどうする。
濡れずとも綾時を魅了し続ける彼の少年の姿をさりげなく探したが、どこへ行ったかそれもない。
ひとしきり落胆しつつ、雨よはやくやめと願うばかりである。

無情な雨に降られる覚悟を決めた矢先、頭に何かを被せられた。

「とりあえず、これで我慢」

耳近くで聞こえた声に一瞬で心の臓が高鳴る。隣には、先まで探していた人物。同じように逃げ遅れた群青の少年がいた。
1枚の長いハンドタオルが2人の頭にかかっている。
傘代わりと言うには少々お粗末だが、直接濡れるよりもよっぽど良い。

(でも、あの、これって)

肩と肩がふれあう。1枚のタオルの下に2人入っているのだから当然だ。長さからして、距離をあければたちまち2人の間を落ちていくだろう。
自然、密着するより他にない。

「なんで」
「文句言うなよ。無いよりマシだ」

少年はぶっきらぼうに言葉を返す。
そういう意味じゃないんだけどな、と綾時は思ったが、下手に話すと自身の動揺が伝わりそうで多くを紡げない。
雨に濡れるよりも平常心を隠しきれるかのほうが大問題となった。
戸惑いながらも、水滴と共にささやかな幸せを連れてきた雲に感謝する。

「わざわざ取りに行ってたの?」
「どうせこれも濡れるから」

雨はしとしととタオルを濡らす。心もとない防御壁は、範囲としては充分だった。

「止まないな」
「止まないね」

タオルの下で雨宿り。定員は2人。
いつもより近い少年の顔は、改めて見ても綺麗だった。水がしたたらずとも魅力的である。
ここから更に濡れたらなにか危ない方で綾時のセンサーが反応しそうだった。

「なんで嬉しそうなんだ」

少年の呆れ顔が覗く。
どうやら顔の緩みが自重できてなかったらしい。

「このままでもいいかなー、なんて」
「は?風邪ひくぞ」
物好きな奴、そう言って少年は視線を空に戻した。

離れない体温、少年の細い肩に寄り添う僅かな時間を手放すまいとした。
互いの手の指先が触れて少し跳ねる。それもどこか可笑しい。
雨はやまない。
彼方で微かに覗く晴れ間に綾時はちいさく手を降った。


遠くから見ていた順平いわく、タオル1枚を共有する姿はまさに2人の世界。綾時はそれはそれは満遍の笑みをしていたという。

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