(これの続き)






ひとめぼれ、というのかもしれない。自分がそんなロマンチックな感情を持ち合わせているなど露ほども思っていなかったが、致し方ない。なんせ初めて見た時から、気づけば彼のことばかり考えているのだ。
いや、こんな出会いなら気にならないほうがおかしいのかもしれないが。

とにもかくにも、現在進行形で私の頭の中は彼のことで飽和状態だ。日を追うごとに、あの現象が起こるたびにひどくなっている気がする。彼を知りたいと思った。そしてまた、彼を知っていると思った。
どこかで会っただろうか。
彼が私を見たときのすべてを知ってるような笑み、眩しく目を細めた仕草が脳にこびりついてはなれない。

ごくごく普通のガラス窓と対峙して、その瞬間を期待することが今や習慣と化している。
鏡の向こうにいる独特の雰囲気を持つ少年は、私とは似ても似つかない。儚げ、中性的、そんな外見をしている。青い髪が印象的な、ずいぶん綺麗な少年だった。


今日もガラスを見ていると、気づけば向こう側の私、すなわち少年が静かにこちらを見ていた。
こんにちは。心の中で挨拶をする。
彼は鏡に映るもう一つの世界を見て何を感じているのだろうか。今の私には到底理解できないに違いない。あの目には見えている以上のものが凝縮されている。
彼の瞳はこの世界の行き先を知っているような、あらゆるものを背負っているような、そんなものも湛えていた。
優しくて悲しい目だった。

互いにぼんやりと交差していた目が、瞬間、カチリとかみ合った。
この時が私は好きだ。彼と私の想いが等しいものになる感覚がする。
アイコンタクトで伝わる彼の感情。まだはっきりとはわからないけれど。

彼の唇が「がんばれ」と動いたような気がした。
あなたもねと笑ったら、彼も笑みを返してくれた。
わずかなつながりは私の胸を焦がしていく。



そして意識が帰還する。
鏡はもう私に戻っていた。高揚した気持ちを引き連れたまま、私は私と対峙する。彼を映さないごくごく普通のガラス窓に映っているのは、嫌というほど見慣れた赤い髪をした女だった。
その女は、なんとも形容し難い表情をしている。焦燥と期待が入り混じったような、

(変な顔)

にぃ、と笑ってみる。唇がつり上がる。なんとまぁ不自然なこと。
彼に対してどのように笑っていたのか思い出せない。ちゃんと笑えていただろうか。変な奴だと思われていないだろうか。
もし今のような笑みだったらと絶望に打ちひしがれる。今後は断固として避けたい。

再びガラスに向き直る。口角をあげる。
彼を今か今かと待たせる鏡たちは、しばらく笑顔の練習に使いそうだ。

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