すっぽりと腕の中に収まる彼のサイズに可愛らしさを感じていた。抱き心地は抜群。
彼は特に気に止める風でもなく、僕の足を下敷きに、胴体を背もたれにして読書に勤しんでいた。いつも耳にかけているイヤホンは首から下でおとなしくしている。
意識しなくても触れられるほど間近にある彼の後頭部になにも感じないわけもなく。僕はそれに顔をうずめながら輪郭を辿り、彼の肩に寄りかかり幸福を得た。

「綾時」
「うん」
「くすぐったい」

返答に構わず彼にじゃれつく。
彼に触れると心地がいい。理由もなく胸を満たす何かがある。触れているだけで満足だけれど、やっぱり彼にも何かしらのアクションを起こして欲しいと願うのはわがままだろうか。
頭をなでると、細やかな髪がさらさらと指の間を滑る。たまにするりと肌に触れては、そのなめらかな感触を堪能した。
黙々と彼は本を読む。残念ながら、文字の羅列にはちょっかいを出すほどの興味はない。
心の赴くままに触れていると、彼のページを捲る指が止まるのがわかった。

「集中できないんだけど」
「させてないの」

肩と首のあたりを甘く噛むとぴくんと体がちいさく跳ねた。逃がさないとでも言うように、腹部に回した腕に力を込めた。

「あー、はいはい」

諦め半分の溜め息が彼の口から漏れたのがわかる。
しおりが挟まれ、パタリと本が閉じられた。ぐるりと首がまわされた。

「どうぞ、お好きに」

なんとまぁ、珍しいこともあるものだ。
今間近にあるのは、青い後頭部ではない。意外にもどこか楽しそうな彼の顔だった。
彼の視界には僕がいる。膝の上で閉ざされた物語にはもう意識は注がれない。
やや低い位置からの上目づかいも可愛らしいと思うのだけれど、それを言うときっと彼は離れてしまうから、今はただ甘いお許しに喜んで従おう。
どちらとも言わず目を閉じる。
互いの唇を重ねるのに、そう時間はかからなかった。

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