「ねぇ、次巖戸台だよ」

耳にかかる声がくすぐったくて目を開けた。瞳を刺す夕日に世界を思い知らされる。見慣れた景色の上を走る太陽がいつもより眩しい。

「おはよう。あ、眩しかった?」

無意識に顔をしかめただろうか。目に影がかかるように手を出される。世界からの遮断。
意識が完全に覚醒する前に刺激を消されたことで眠気は続投された。

肩に触れる自分とよく似た体温は安堵感をもたらす。
冬の朝に暖かい布団から出たくない感覚に似ている。

「もう少し、このまま」
「でも、駅過ぎちゃうよ」
「別にいい」

アナウンスと共にドアが開く音を散在した意識で聞いた。

「じゃあいっしょに果てまで行っちゃおっか」
「いいな、それ」

くすりと笑う。二人で小さな逃避行。なんてロマンチック。
どうせ終点で行き止まりだろうけど。

「宇宙まで行ったりしてな」

銀河を渡る鉄道の話を思い出す。
いっしょにいこうと言ったのは誰と誰だったか。

ドアの閉まる音がする。
さあ、物語の、はじまり、はじまり。

「着いたら起こしてあげるよ」

瞼に手をあてられ暗闇が広がる。同時に意識は急降下。もう綾時の温度と声しかわからない。安心空間。まどろみからは脱け出せそうにない。

「おやすみ」

次に目が醒めるのは駅の果てか、それとも銀河か。
綾時がいるならどちらでもいいと思う。

ぬくもりに身を預けて、またゆっくり目を閉じた。


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