「状況説明をお願いします」


まさかこんな場面に出くわすとは思っていなかったのだろう。金髪の美少女アイギスさんは、いつも以上に抑揚のない機械的な声で僕に警告を鳴らしていた。まったくもって無表情。ぴくりとも笑っていない(最近気づいたのだが彼女も彼と同じようにあまり表情がない)

彼女の麗しの少年は心地よいまどろみに没頭している最中だった。ゆっくりと流れる雲の下で、秋風に吹かれつつ喧噪が遠くに聞こえる屋上は睡眠に最適。
枕、すなわち僕の腿は堅くて不快だと文句を垂らしながらも最終的に気持ちよさそうに寝ている彼を見るに、どうにも照れ隠しだったのかもしれないと一人納得し頬を緩めていた。そんな幸せな一時を堪能していたところだった。

「彼から離れて!!!」

いつもと変わらない警告音。いつもと変わらない、怒気を孕んだ声色が響いた。
もぞりと彼が動く。腿がくすぐったい。
苦笑気味な僕とは対照的に、険悪なオーラを立ち込めながら彼女はこちらへやってくる。

「アイギスさん」
「何ですか」
「起きちゃうよ?」
「…〜っ」

スヤスヤと眠っている少年を指差した。僕の経験上、彼女の行動はすべて彼のために帰依しているはずだ。
そして僕の予想通り、彼の様子を見るやわなわなと震え、でも少し経つと何かを決心したように彼の近くにストンと座った。

彼の安眠と僕の撲滅とどちらを選ぶかヒヤヒヤしたけれど、彼女にとっての優先事項はどうやら前者であったらしい。彼第一の彼女らしい行動で、今はそれがありがたい。
彼は本当に愛されてると思う。こんなにアイギスさんからたっぷりラブコールをされて、彼もまんざらでもなさそうなのにこの二人は付き合っていないというのだから驚きだ。お似合いなのに。
まぁそのおかげで僕にも彼にアプローチするチャンスがあるわけで。

とりあえず、起こしてでも引き剥がすという結論に傾かなかったのは僕としても嬉しい。
僕の隣…ではなく、地べたに座られた辺り嫌われてるとは思うのだけれど。

「なんでそこ?」
「彼の顔がよく見えます」

なるほど、合理的。
彼女はある程度の高さにある彼の頭に位置を合わせて座っていた。定期的に僕のほうを見て、僕が彼に何かしないか監視する仕草も見せている。
そんな視線をものともせずに話を進められるのは僕の誇るべき能力ではないだろうか。

「いい天気だね」

思ったことをそのまま口にした。誰かと感動を共有するのは悪いことじゃないはずだ。本来共有するはずだった彼は、残念ながら夢の中だし。
彼女は首をそらせて空を見た。僕は彼女を見た。そして、真上からやや外れた彼女の視線を捉えた。
空と同じくらい青い瞳は、青空を映して一段と澄んでいるように見えた。
その整った瞳に見つめられるとドキドキしてくる。女の子はみんなかわいいけど、やっぱりアイギスさんはとびっきりかわいい。

「視界にあなたの顔があるのが不快です。ダメであります」
「えぇ!?そんなぁ〜」

共有は無残にも敗北。こんな時でもダメ出しを忘れないなんて。彼女は筋がね入りの彼好きであると同時に、筋がね入りの僕嫌いであることが辛いほど身にしみた。言葉の暴力だ。でもめげない。がんばれ、僕。
彼女は痛恨の一言を言い放つと、彼に視線を戻した。興味を失ったようだった。

「空は好きじゃない?」
「彼を見ることのほうが、私にとって有意義です」
「一番の大切、だから?」
「はい」
「彼は幸せ者だね」
「そうでしょうか」

再度彼女が顔をあげた。
その下には大好きな彼の安らいだ寝顔。

「そうだよ。君みたいな子の一番の大切なんてさ。
あ、それにね。気づいてる?彼はいつも幸せそうだよ」

彼は少し顔をしかめたり苦い顔をしたりするけれど、時折愛おしそうに幸せそうに微笑んでいる。アイギスさんといる時は特にそうだったりする。それがちょっと、いやかなりうらやましい。
彼女も知っていると思ったが、彼女は何も言わなかった。僕も何も言わず、彼と彼女を見つめていた。

秋風が優しく吹いている。
彼は僕の膝の上で心地よさそうに眠っている。アイギスさんは不服そうにしていたけど、今はもう落ち着いたみたいだ。私も膝枕を、とか、考えているのかもしれない。
珍しく、本当に珍しく、僕と彼とアイギスさんの3人が争うことなく傍にいる。たったそれだけのことがとてもうれしかった。
束の間の休息というのだろうか。
きっと彼が起きたらびっくりするだろう。それから幸せそうに笑うのだ。あぁ見てみたい。

この日の流れる雲も、彼女のなびく髪も、彼の寝顔も、いつも以上に美しく思えて、だから、また少し世界が好きになった。


「ね、おきて」

そろそろきみが恋しいよ



(はやく、3人で、おはなししよう!)

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