喉が痛い。頭もぼーっとする。だるい。とにかくだるい。体を起こすのも億劫。

「大丈夫?」
「…ぜんぜん」
「だよね」

典型的風邪の症状にSEESリーダーの少年は心身共に参っていた。
もう天井を見るのも飽きてしまったが、首くらいしか動かせないのだから仕方ない。
視界を動かして、これまた見飽きた部屋の景色を見た。人が入れ替わり立ち替わり出入りした部屋。床にはいかがわしい本が数冊転がっている。
それらは順平から「これでも使って時間潰せ」と渡されたものだ。できればそうしたいところだがそんなことをやる元気すらない。
タルンダ先輩にはトレーニングがなってないと散々だめ出しをされたあげくに気合いで治ると言われた。
男子2人からの男らしい励ましを思い出し苦笑する。その後携帯に心配のメールが入っていたのを見る限り、案外友情も捨てたものではないと思った。

机の上では風花特性の「風邪によく効くスープ」が未だ怪しげな音を立ててくすぶっていた。元気になってね、と頭を撫でてくれたあの癒し系が忘れられない。
あの子は本当にいい子だ。料理の腕さえ良ければ。鼻がつんとするのはスープの副作用ではない、はずだ。うん。

ゆかりからはばかじゃないのと罵倒されるかと思ったが、美鶴先輩と一緒にかいがいしく世話をやいてくれた。薬を持ってきてくれたり、頭を冷やしてくれたり、りんごを剥いてくれたり。
ひょっとして、すごく、おいしいポジションだったんじゃないだろうか。頭がもっとしっかりしてたらじっくり堪能したのに、と健全男子の思考でやや後悔した。だって、あの美鶴先輩が「あーん」とか。
ちなみにゆかりは部屋で見守りたいと申し出ていたらしい。美鶴先輩が止めたみたいだけれど。後から聞いた話だ。

天田はだらしないですねと言いながらお粥を持ってきてくれた。
ガツガツ、とまではいかないが少しずつ味を噛み締めた。あぁおふくろの味。
ありがとうと言うと、僕に言ってどうするのかとそっぽを向かれた。
だってせっかく作ってくれて、持ってきてくれたのにありがとう無しじゃあ気が済まない。本人が自分で持って来なかったのはたぶん照れによるものだろう。あの人はそういう人だから。
「僕も別に、貴方の様子が気になって来たわけじゃないですし」
うん、そうか、そうかもしれないな、そういうことにしておこう。
一緒についてきたコロマルは、笑いかけると嬉しそうに尻尾を振っていた。

みんななんだかで心配してくれてたようだ。嬉しいけど少し照れくさい。
治ったらちゃんと一人一人にお礼を言おう。

「…ところで、さ」
「何?」
「なんでお前も一緒に寝てるの」

今まで動かすまい、向かすまいとしていた首をようやく傾け隣に横たわる人物を見た。綾時だ。まごうことなき、望月綾時がいた。
いったいどこから潜り込んだのやら。

「寝るなんてそんなっ。いや、でも君となら…」

よからぬ勘違いは聞こえなかったフリをした。隣の物体はもぞもぞと移動してくる。更に接近している。手を体にまわされる。ただでさえ暑いのに、そんなべたつかれたらたまったもんじゃない。

「うつるぞ」
「君の風邪菌なら喜んで貰っちゃうよ」

啄むようにキスを落とされた。こっちはだるくてろくに抵抗もできない。なんだかなぁと思いながら綾時のスキンシップを受け入れる。ひやりとした感覚があった。綾時の手が肌に直接触れていた。
火照った身体に綾時の手は冷たい。くすぐったい。変な声が出そうになる。綾時はまるで猫のようにすり寄ってくる。

これ今、貞操の危機かも、とぼんやりした頭に唯一それだけが思い浮かんだ。人間の防衛本能はいついかなる時も発動するものらしい。

「おい」
「なぁに?」

少年は綾時を黙らせる魔法の言葉を知っている。

「アイギス呼ぶぞ」
「ごめんなさい」


大人しくなった綾時に少年は満足に思い、綾時はかの少女が来ないことにただ胸を撫で下ろしていた。
しかし少年の守護神アイギスは、呼ばずともこういう危機にタイミングよく登場してくれるもの。
望月綾時が氷枕を携えた鋼鉄の乙女に抹殺されかけるまであと少し。










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禄様リクエスト、風邪主人公とみんなでした!
主はもっと心配されてたはず…!!という淡い期待、妄想を抱いての話になりました。
みんなに愛されてる主が大好きです。私の願望です。おふっ

リクエストありがとうございました!

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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