心にぽっかり穴が開いたみたいだった。
僕の殺風景な部屋は相変わらずがらんどうな空気を閉じ込めていたけれど、以前はここまで空虚じゃなかったと思う。何かが違う。何かが無い。それはペンだとか本だとかカーテンだとか物質的なものではなく、精神的なものであるかもしれない。

「僕の…」

僕の、何だろう。僕は何を無くした?
曖昧な記憶は僕を不安定にするでしかない。そういえば昨日の記憶が曖昧だ。新年のカウントダウンもせずに何をしていたんだろう。声もなぜかかすれている。
そこで初めて、自分が泣いていることに気がついた。こめかみから耳へととめどなくつたうそれを止める気力はない。痛みを孕んだ錆は涙で落ちることもなく、胸にこびりついたまま残っている。この違和感はなんなのだ。
今の空虚な僕が昨夜の僕と関係しているであろうことは本能的な所で感じ取っていた。何か大切なものがあった。昨日の僕はそれを壊した。
全部終わった。僕が終わらせた。
もういいよと誰かが泣いていた。

「どこ、行った」

ふらふらと天井に向けて手を伸ばす。僕は何かを求めていた。愛しい愛しい、大切な、僕の何か。当然のことながら何もない空間で何かを掴めるはずもない。

どこにも、いないんだ。

一呼吸置いて、探しものが見つかることは決してないと知る。諦めてぼんやりと視線を動かした。机の上では見慣れない銀色の銃が存在を主張していた。なんだこれは。わけがわからない。
ろくに思考ができない頭で内部をサルベージする。無い物を探すというのも可笑しな話だ。そうして結局、この体には一滴の幸福感しか残されていないと理解した。
望みを叶えてあげたことに対する幸福感。喜んでいるだろうか、僕の愛しい愛しい何か。

ぱちりぱちりとまばたきをする。僕は今、何かを見つける方法を思いついた。それはとても簡単なことで、どうでもいいことだった。さすが。僕は天才だ。
もう一度、まばたきをする。大きめの滴が頬をつたう。


ただひとつ残っていたその幸福感を抱いて、僕はそっと息を止めた。

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