鼓動が聞こえた。小さく大きく渦巻く全世界の膨大な脈動に僕は足を縫い付けられる。本能は恐れおののきながら地べたを這いずり世界をなぞる。人の醜くて汚くて美しくて眩しくて鮮やかな軌跡、生命活動、総意はとても尊いものであるのだから、僕はそれらを無碍にできるほど空虚な人間ではなかった。ちっぽけな僕に命を握られているとは知りもしない知ろうともしない彼らのために僕はすべてを投げ捨てる。くだらないなら笑えばいい。
頭上では球体、卵が瞬いている。

―うまれる、うまれる、

静かに爆風。切り刻まれるような感覚がする。内臓がひしゃげる。皮膚が裂ける。片側の視界が赤く染まった。所々から血を滴らせながらそれでも僕は立っていた。
最後は僕で終わらせたかった。彼と僕と、彼女が作った10年間。始まりが僕らであったなら、終わらせるのもまた僕らである。赤子を泣き止ませるのは母の仕事だ。精魂尽き果てようと構わなかった。

僕は僕の下で歯を食いしばり生にしがみつきながら僕と共にあらんとする彼らの叫び声を聞いた。背がぞくりとうずく。彼らを救うのが僕であることに至高の喜びが駆ける。これが僕の、みんなへの愛だ。僕の大切な大切な大切な(だいすきです)
そして愛しい死神の笑い声と泣き声と、母を求める幼子ように僕自身を呼ぶ声が脳天を貫いて僕は震撼した(あいしています)
もう少し眠っておくれ。大丈夫、そちらは緩やかに息づいている。
君が、お前が、あなたが、ただ一人。させるものか。おいで。網膜に僕であり僕でなかったもの、彼を捉え、触れる。いいの?いいよ。いいの?行こう。

光が迫る。焦げ付いた視神経は白だけを捉え再度感覚が焼け落ちた。腕がひき千切られそうになる。骨がミシミシと悲鳴をあげる。しかれども絶対的なものなど恐るるに足らず。今この瞬間、僕を構築した醜くて汚くて美しくて眩しくて鮮やかなすべてのものが僕の崩れ落ちんとする背を押した。恐怖を焼き尽くせ。聞き慣れたフレーズがエンドレスリピート、聴覚を支配した。すべきことはわかっている。僕自身はもう壊れていたけれど、ひと欠片の希望が僕を動かしていた。人間の僕が死の神を超えてやるにはどうすればいい。人をやめればいい。人であることも生も諦めるなどできなかった僕は、とうの昔にすべてをこぼしながらそれらを断ち切っていた。

再度視界が瞬く。
充分がんばったよ、もうやめてよ、だめだよ、君は、
いいや、まだだよ。僕は最後の仕上げをしなくちゃいけない。
僕の、鉄の塊の引き金を引くことを辞めた右手が正義の鉄槌を下すためにゆったりと掲げられる。(目を閉じても、耳を塞いでも、それは訪れる)恐れるな、終わらせろ。そして始めるのだ。世界は終わると誰が言った。
視界をえぐる閃光が耳をつんざいた。
目を開け。耳を塞ぐな。

人工的ビッグバン。言うなれば誕生である。
神様、どうぞ見ればいい。






(いらないんじゃない。少し置いておくだけだ。また後で取りにいくよ)

(きらきらとかがやいていた。きれいだった。ぼくにはもったいなかった。だいすきな、とおざかる、ばいばい、)

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