ハッピーハロウィン。トリックオアトリートと脅迫じみた呪文を唱えてお菓子をもぎ取らるイベントにかまけて世界平和を夢見る少年少女たちが寝起きする寮にお菓子と不純な心を携え乗り込むデコマフラーがいた。

「トリックオアトリート!」
「なにその格好。くたびれたサラリーマン?」
「そんなマニアックなネタ持ってこないよ!ドラキュラだよドラキュラ」
「………間に合ってます」
「間に合ってないでしょ家にドラキュラいるとか聞いたことないよ!?お願いドア閉めないで!」

ガツンとドアを足先で捉え(どこの押し売りだ)わずかに保たれた隙間から軟体動物さながらに体をくねらせ部屋に滑り込んでくる自称ドラキュラは正直気持ち悪い。こんなドラキュラいてたまるか。

「お菓子あげるからイタズラしてください!」

ワォ!土下座ディス!
あの裁縫大好き留学生が見たら「ハラキリ!ハラキリ!」とむせび泣くに違いない。

特別課外活動部のリーダーたる少年は、目下で少年が物資を掲げながらその剥き出しの額を地面スレスレまで下げて懇願する様を腐った生ゴミを見るような目で見下していた。「ドMなドラキュラ」というワンステップ上の体を張ったギャグをしているのかもしれないが少年にしてみればツッコミすら放棄したくなるほどのそれはそれは生ゴミだった。今日はゴミ出しの日ではないのが残念でならない。
しかしながら綾時が持ってきたお菓子は悔しいことに高級洋菓子店のチョコレートだった。献上品だけは誉めてやろうと思う。

「その菓子だけよこせ」
「!!トリックオアトリートだね!よしきた!お菓子あげない!からイタズラしなよ!ほらほら!」
「くそっ…お前バカだろ…!」
「じゃ、じゃあイタズラさせて!」
「お前がまともと思ってた俺がバカだったよ」

どこで間違えたのだろう。思えば不用心にも部屋の扉を開けたのが運の尽きだった。何が起こるかわからない、目と目で通じ合ったその瞬間に戦いのゴングが鳴る昨今でむやみやたらにドアを開けてはいけない。寮のセキュリティだって隠しカメラはあるくせに万全ではないのだ。今だって開けた瞬間に変態がいたのだから。

お菓子ほしいイタズラもしてほしいむしろしたいとのた打ち回るこの腹ぺこマゾ野郎からチョコを奪取するには如何すべきかと少年は痛い頭を無駄に抱えた。価値は完璧に綾時<チョコだったがそんなことはどうでもいい。眼前のレアシャドウの弱点はとりあえず股間か。倒せばアイテムを落とすのは確実だ。
少年は間違った方向に全力投球していた。

「よしわかった。ギブ&テイクだ」

もはやハロウィンのルールを忘れ、少年はポケットの中から既に叩かずともぐしゃりと潰れた可哀相な菓子パンを綾時に差し出した。ルールは破るためにあった。パンからははみ出たジャムがチラリズムだ。

「ほら、これやるからそれ置いて帰れ」
「菓子パンはお菓子に入りません!」
「なんだよワガママな奴だな」

綾時のくせに生意気だ。コイツ本気で面倒くさいと少年が出せるものはもはやため息だけだが、それがお菓子に変わる訳もない。

「…お菓子がないなら君を食べればいいじゃない」
「は?」

いやいやいやお前なに某女王様みたいなこと言ってんの?少年の中では疑問符がメリーゴーランド。綾時はとても身の危険に直結する不吉な言葉を並べていた。聞かなかったことにしたかった。

「というわけでいただきます!」
「ちょっ…!ばか!うわっ!!!」

やっぱりそんなオチかよ!
ドラキュラから狼男に変貌した訪問者を少年は呪い、対する綾時は大層ご満悦に少年を押し倒し、10月最後の夜は更けていく。

あれは本物の狼だったと後に少年はチョコを頬張りながら語っていた。

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