「あの人は幸せだったのかな」

地面を見ながら隣を歩く妹は手近な石を蹴りながら呟いていた。カツカツと不規則に転がる小石を少年も何となしに見る。
蹴った小石は図らずも溝にホールインワン。少女ははけ口の消えた爪先に再度肩を落とした。

そうだ、映画に行こう
言い出したのは妹だった。
行動が行き当たりばったりすぎるというか、予定があったらどうするつもりだったのか。結局暇人間だったわけだが、案外それを見越しての連行だったのかもしれない。
少年は発言する暇もなく、はやくはやくと手を引かれ飛び出すように寮を出た。逃避行みたいと彼女は笑っていた。

「彼女は恋人のおかげで明るい未来を約束されたわけじゃない。でも結局恋人がいなかったから、意味ないと思うの。幸せにはなれないよね」

ラストは妹の涙腺を非常に刺激するものだったらしく、隣から鼻水をすする小さな音が断続的に聞こえて正直映画どころではなかった。物語よりも鼻水の行方が気になって仕方なかったのは不可抗力というもの。
散漫な意識でところどころ思い出せるラストシーンは思うに感動的であった、かもしれない。ハッピーとアンハッピーの間を行き来する結末は賛否両論だろう、どうでもいいことだが。

「さぁ、どうだろう。本人じゃないからわからないよ」
「どうでもいい禁止ー」

ぶーぶーと口を尖らせて抗議する妹を尻目に少年はぼんやりと結末について考えていた。
本人たちがいいと言えばそれでいいのだ。第三者が口出しすることではない。もっとも、映画に関してそこまで感情移入する気もないわけだが。
されどもし、と考えて少年はチラリと隣を見た。己の片割れの姿を確認する。
「あなたと一緒がいいの」キネマの安い台詞が脳内を踊る。

―やはりあの映画の恋人たちは不幸だったのかもしれない。

「幸せではなかったかもね」
「やっぱり?私もそう思うの!」

コロコロと変わる姿が面白い。楽しそうにぴょこぴょこ跳ねる妹はさながら小動物だった。

「私だったら、葵のいない未来とかごめんだから」

考えることは一緒らしい。
照れ隠しと喜びを込めてぽんぽんと頭に触れるとえへへと屈託なく笑われて、癒し系とはこのことかと一人納得した。

「ね、私ね、今とっても嬉しい」
「なんでまた」
「だってさ、葵と映画見て、ポップコーン食べて、それって同じもの見て、同じもの食べて、ってことでしょ?それだけで贅沢なのに感想も同じなんて素敵じゃない」

やっぱり一心同体ねと大袈裟に頷く妹に感想は違うから面白いのだと言うのは野暮であろう。少年はそんなものかと受け流していたが、こんな些細なことでも感情豊かに自分を表現できる妹が羨ましく、そして誇らしかった。

突如タッと妹が数歩前へ出る。くるりと回転し、にこやかにこちらを見る。翻るスカートから覗いた足は細くしなやかにターンを描いた。
演技じみた仕草なのにどこか美しいと思うのは所謂兄バカであるからか。

「映画の再現、いってみよう!」

ニカッと弾けるような笑顔に目が眩む。沈みかける夕日に手を繋いで走り出す。
それは確かに今日見た映画のワンシーンで、どこの少年漫画だと笑っていた。当然自分はスクリーンの向こう側の観客であるはずなのに、どうしてだか彼女の物語に巻き込まれてしまったらしく眩しい夕日およびスポットライトが自分にも当たってあぁ僕も主人公なのでしょうか。
少年は少女に手を引かれながら、輝かしくて目も開けられないほどのハッピーエンドを夢見たという。









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アロエ様より、双子主で映画館でした。
今回映画(祭)イベがあったら的な妄想でやったのですが…!
2人でキャッキャウフフしながら外出して映画見てるとこ想像したら私の頭がデッドエンドでした。双子はデフォで仲良しさんだといいと思います。
ありがとうございました!

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