青に溶けるような瞳を持つ男は、花でも飛ばしそうなほどニコニコと俺の前に立つ。対する俺は非常に機嫌が悪かった。今なら召喚器無しでこのおめでたいデコマフラーにハルマゲドンをぶち込めそうである。

屋上に呼び出され告白されたことは何度かあるが、どうやらこの望月綾時という男も例外ではないらしい。

先からこの男はいけいけしゃあしゃあと同じ内容の言葉を吐く。さも当然のように伝達してくるのだ。しかもそれが不快でない自分自身に余計に腹が立つ。
彼に対して最初に抱いた感情は恐らく既視感であったと思う。数日前に消えたあの子と重ねて彼を見ていた。今はどうだ。あの子どころか自分にまで重なるのだ。

「好きだよ」

眼前の男はそんな自分の葛藤を何とも思わず、何度目かわからないささやきを繰り返す。
はいそうですかと軽く目を逸らせばむぅと唸るような声が聞こえた。

「本当に、好きなんだ」

ささやきは悲痛な叫びに変わったが、それでも目を合わさなかった。彼を見たら、その悲痛な顔にあえなく陥落してしまうことだろう。

「そういうのは女子に言え」

悪いが男に興味はない。俺だって純粋な男子なのだ。男より女のほうがいい。だいたいコイツも女子にばかり声をかけてホイホイ白河通り辺りに遊びに行くようなヤツではないのか。
お前、深層心理じゃバイなんだな。

「違うんだ。そういうのじゃなくて」

何が違うというのだ。この天然タラシが。
だが深層心理という面では人のことを言えないのかもしれない。常日頃から、他人とは一定の距離を保ちながら接していた。それが自分のスタンスだった。だのにこの男ときたら平気で自分の領土に足を踏み入れ、あまつさえ細胞の一部とすり替わり拒絶反応の一つもせずに溶け込むである。そしてそれを平気で許す自分がいた。これが戸惑わずにいられるものか。

「ふざけるな」
「本気だよ」

彼といることでやっと自分が自分たらんことを確認し安堵したことが信じられなかった。まるで自分自身であるかのような錯覚を覚えるのだ。彼は赤の他人だというのに。血さえ繋がっていなければ、髪の色は愚か肌の色さえ違うこの物体にここまで心を許す自分に嫌悪感を覚えた。おまけに愛されることが不快でないときた。今それを身を持って実感している。ずっと傍にいたいと思ってしまう。

「僕は君が好きです」

欠落した自分に彼が流し込まれることで埋め合わせてられているのだと感じると酷く目眩がする。
たぶん、この男も同じことを感じているのだろう。そして傍にいて満たされる安堵感をいとも簡単に愛情と呼ぶ。俺には無理だ。

「俺はお前が嫌いだよ」

冷めた目で彼を見て、吐いた言葉にキリリと心が軋む音を聞いた。
彼に気づかれなければいい。これは戸惑いから来る自己防衛にすぎない。

なぁ、俺もお前が好きだよ。

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