好きだと気づいてからは後が大変だった。恋は盲目とはよく言う。どうしてこうもことごとく愛しく思えるのか。
文字を書く仕草や眠そうに目をこする指先やたわいもない会話をしている時の僅かに弧を描いている唇、長い前髪から右目がちらりと覗いた瞬間。
たまに蹴り飛ばされたりするけど、それも愛されてるから、なんて。

「全部好き。君が好き。好きなんだ、ねぇ、」
「わかってる」
「わかってないよ」

少年は一向にまともな返事を返さない。相槌程度に発せられる言葉に切なさを感じる。この言葉の重みをわかっているのか。少年にこんなことを言われたら幸せで卒倒できるに違いないというのに。
綾時の言葉は最低限耳に届くのみで少年の深層まで浸るわけでもない。表面を撫でるだけの行為に歯がゆさを感じずにはいられなかった。

「だいたいね、僕は男なんだよ」
「俺もだ」
「男としてはやっぱり好きな子には抱きしめたりキスしたり、あ、キスっていうのはもちろんディープなほうね。それから押し倒して顔とか体とか全部にキスしてあわよくばそれ以上のことを」
「ちょっと待てやめろ。なんだお前、いつもそんな目で俺を見てたのか」

わかりやすいほどに顔に不快を示した少年に違う違うと首を振った。しまったと思う。これではただの盛っているオスだ。品がない。
言いやすい言語にしてみただけであって実際のところ性的欲求しかないわけではない。いやあるにはあるのだが。
世界で一番好きとか君以外目に入らないとか恥ずかしくて言えるわけがない。

「じゃあ別にやましいことしたいとは言わないからさ…手、つなぎたいです」
「………それくらいなら…まぁ」

そして最近気づいたのは、少年が押しに弱いということだ。困った目で見ると尚更たじろいで心を揺らしているのがわかる。
人がいいというか、根っこでは優しい。そういうところが大好きで、そこに付け入る自分を嫌悪しつつも差し出された少年の手を握った。
キスもまだな恋人たちには手を繋ぐだけでも一大イベント。次のステップに繋がる大事な第一歩だ(と、綾時は思っている)。

綾時は右手に全神経を集中させた。手のひら全体から伝わる温度。少年のもの。重なった手がはっきりと視界に入る。確かに繋がっている何よりもの証拠。
嬉しい嬉しい嬉しい!
少年が素直に繋いでくれたこともひっくるめて綾時は一人で舞い上がっていた。この気持ちをどうしてくれよう。好きで好きで、どうにかなってしまいそうだ。
心臓が盛大な打楽器になりかけている相手の内側を覗く気も無く、少年は常と変わらぬ表情で綾時を眺めていた。
むしろそこまで喜ぶものなのかと半ば呆れ顔だった。綾時にとってはそんな顔さえも愛しい。

「あのね、次はキスしてほしい!」
「調子にのるな」

即座の拒絶。べしんと顔をはたかれた。そんなに嫌かなぁと内心しょげ返りそうだった。
でも右手は握られたまま。あぁなんてこと。

僕はこの子がかわいくてたまらない!

叩かれるのも悪くない、なんて。
握られた手の感触を何度も何度も確かめた。
キスなんかしたら死ぬんじゃなかろうか。
そんな気さえした。

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