学生になるならば筆記用具が必要になるだろうとのことで、まだ一人で買い物をしたことのないアイギスは社会経験も兼ねて少年と共に文具購買に繰り出していた。
とりあえずは、シャーペン。らしいのだがどうにも種類がありすぎる。

「アイギス」

直立不動でペンの群れに対峙していたアイギスは、見かねた少年の助け船にキュイと視界を傾けて感謝した。
幾分色も形も様々でどれがいいのかなど検討もつかない。この調子では閉店まで居座ってしまうかもしれなかった。
アイギスが見つめる隣で少年はある種類のシャーペンを選ぶ。その細い指がひょいひょいと一色づつ棚から抜き取り、そしてそれらを差し出した。

「好きな色は?」
「好きな色、ですか」

どうやら好きな色のシャープペンシルを選べ、との指示らしいがはたはた困ったと再び立ち尽くす。選ぶにも選ぶことができない。
色の判断は付く。だがいかんせん好きという概念を理解するにはまだ情報が少なすぎる。

「残念ながら私にはそのようなプログラムは組み込まれていません」
「うーん、まぁそうなんだろうけど…」

少年はどうしたものかと髪を掻いた。その仕草から彼を困らせていると判断したアイギスは、またも必死にシグナルを巡らせる。焦りにも似た行動。
しかしどれほど凝視しても色に優劣はつかない。一向に答えは見つからない。色の大群は無言の圧力を持ったままアイギスの目を潰しにかかる。
いい加減なんとかならないものか。やや不満げに視界をずらすと、そこには彼女のよく知ったる色があった。
それをしばし彼の手元のシャーペンと見比べる。並んでいる色よりはいささか暗めではあるが、この色は一番自分に馴染む。むしろこの色なら自分は反応しただろうに、色を決めれなかったのはシャープペンシルの色の数値が若干違ったからなのだと頷いた。

「アイギス?」
「決まりました」

迷いなく少年の言う"好きな色"を抜き取ると少年は少し驚いて、それからまたいつものように微笑んだ。

「青にする?」
「はい」

そっかと呟いた少年の返事にはあまり起伏がない。
彼は自分が適当に選んだものだと思っているのではと踏んだアイギスは、それは不都合だと言葉を探した。
誤解を解くには"ストレート"が一番らしい。前にゆかりが言っていた。


「青が好きです」

別の棚へ移動しようとする少年の背を引っ張るように声をかけた。直球勝負。正直に。
少年は不思議そうにアイギスを見ていた。ほんの数秒前に"好きな色"の概念がわからないと言っていたのだから無理はないとアイギスは思う。
小首を傾げる少年にもう一度、青が好きだと告げた。

「どうしたの、アイギス」

理解するには少々難しい行動だが、しかし少年は緩やかに彼女の答えを待つ。
対する彼女は、今なら少年の問いに答えられると胸を張って堂々と。

「あなたの色ですから」

少年の大きな瞳が一際大きく見開かれたのを、彼女はそのガラスの瞳でしかと見た。その後頬に赤みをさしながらそっぽを向いた少年の仕草に、これが照れるということだと記録することも忘れずに。

さて、全部青で揃えると言ったら少年はなんと言うだろうか。
答えを告げたアイギスは一人誇らしげに青のシャーペンを持っていた。



少年の選んだペンの種類が、実は彼の現在愛用中の種と同じであると彼女が気づくのはもう少し先のこと。

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