今、自分の右手は黄色マフラーの少年の左手と絡み合わされていた。指の隙間に相手の白く長い指が入っている。いわゆる恋人繋ぎ。密着度大。男の手を握って嬉しそうにするとはいかがなものか。

「この手のとこだけ見るとさ」

少年綾時は相手の心情などお構いなし。それを人はマイペースと呼ぶ。

「祈る時の手に似てない?」

話を突然持ち出すのもいつものことだからもう慣れた。一切の思考を放り出し、疑問に答えるためだけに手を見やる。
交差する指、押し付けた手のひら。見えないこともない。
小さく頷けば、そこには満足そうな顔があった。

「なら、お前は何を祈るんだ」
「んー。ずっと君と一緒にいられますように、かな」

えへへとはにかんで笑う少年。下がる泣き黒子に夜の小さな友人を見た。そういえば、彼も共にあることを願っていた気がする。それは叶わなかったけれど。
ずっとこうしてれば離れないけどねと手を見る目は幸せそうで、そして本当に祈っているようだった。ありえないとわかってなお祈り続けるのは馬鹿げていると思ったが、少年のためなら永遠を祈るのも悪くないような気がした。

「これ恋人繋ぎだぞ」
「知ってるよ。僕ら恋人だし、問題ないでしょ」
「ばーか」
「愛してるよ」
「寝言はよせよ」

くだらない冗談の飛ばし合い。陽気な午後の適度なスパイス。刺激が欲しくて思いっきり握ると、痛いと歪む顔が見えた。ごりごりと固い感触。骨があたって相手の甲の肉付きの無さを確認する。
(知ってどうってこともないんだけどな)
まったく違う互いの手が今だけは一人の手に見えた。同じ胴から生えている感覚。左右非対称、アシンメトリー。この両の手が一つだったなら、悩みも全部握りつぶしてしまえるのに。

「君と手を繋ぐと安心するんだ」
「そりゃどうも」

口の減らないマフラー野郎にデコピンひとつ。恋人とは程遠い関係にくすぐったさを覚えた。この空気は嫌いではない。

「ねぇ、一緒にいれたらいいのにね」

気休めの祈りを捧げて僕らは堂々巡りの朝を繰り返すのだろう。くだらない。けれどもし連続の終わりが何千何万回後だと言うのなら、それは人にとっては永遠に限りなく近い。だとしたら、ずっととか永遠なんて祈らないで百万日後の朝に終わりますようにとでも祈ったら神サマも妥協してくれるんじゃないかと、これまた馬鹿げたことを考えた。自分も相当彼のことが好きらしい(死ぬまで一緒にいたいだなんて)
より一層強く手を握る。体温が伝わる。恋人繋ぎの手のひらは驚くほど自分になじんでいる。可能な限りずっと、繋いだ手は離さなかった。
(恋人、ね)
離れなければいいと思って見た繋ぎ目は、なるほど祈りの仕草に似ていた。

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