時間がないのだと、はやる気持ちを抑えることもせず可能な限り足を動かした。暗転した箱庭で遮る影を迷い無く斬りつけ少しでも前へ体を進める。酸素がたりない。呼吸の仕方を忘れる。感覚がおぼろになっていく。

逢いにいかなきゃ。彼が孤独で泣いている。
はやく、はやく。
磨り減る神経に鞭打って無限にも思える階段を駆け上がる。制止する仲間の声も遮断して塔の終わりを目指した。彼が、泣くから。逢いたい。もう充分泣いただろう。

我先にと急かす心臓だけでも飛ばして生きた鼓動の数だけ愛してるを。リズミカルな子守歌で安心して眠れるように。
言い足りない愛の言葉を並べたら、お前はなんと言うだろう。愛が重いなどと笑うだろうか。お前が笑うならそれもいいと思った。
この薄汚れた手が恨めしい。たどり着いた先で抱きしめることもできない。その心の臓目掛けて愛を突き刺すことでしかこの感情を渡すすべを知らない。

巡る残像。燃える陰影。声が、思い出せない。
逢いたいと叫ぶむき出しの目が空を切って景色を滲ませた。

愛しています。それを伝える時間すらないのです。

いつか見た夢の続きの平行線。永遠を辿り吟遊詩人は恋人に逢いに行く。軋む両足をがむしゃらに持ち上げて地を蹴った。
これからは今よりもっと純粋に生きて、お前を抱きしめて、そんな1日にキスをしよう。泣きたくなるほど満たされた日常。
遥か未来に笑い合う2人を描き、手遅れな生に終止符を打つ。もう終わるからと言い聞かせ、赤い滴をひた垂らしながら走った。血と共に感覚が溢れ出る。彼の流す涙に比べたらなんともない。苦しくて吐きそうになる。無意味な感情を押し込んだ。彼を愛していたかった。
終わらせるために、逢いに行くのだ。別の運命ならもっと違っていただろうが、そこに彼がいないなら意味はない。彼に会えたのがこの運命だけだというのなら、僕は運命に感謝し自ら運命を殺しに行く。初めて望んだ終わり。僕も彼も苦しいこの運命にどうか終わりがあれと願う。これが全部終わったら、また愛にまみれて共に生きよう。
だから今は、お前が僕の愛で死にますように。

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